

体力の限界、気力の限界など完全に突破して第一線を走り続ける80代女性。“いまを生きるひとたち”に何を伝え、何を残していきたいのか。ライフジャーナリスト・赤根千鶴子氏が「きくち体操」創始者の菊池和子さん(85)を直撃。人生の先輩の言葉は、深く心に突き刺さる。
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「こんにちは。よろしくお願いいたします」
「きくち体操」創始者の菊池和子さんが、トレードマークの赤と黒のウェアで現れた。わっ、艶っぽい。そして、なんてきれいな肌! さらに目を引くのは、その姿勢の美しさだ。
「姿勢を褒めていただけるのは、嬉しいですね。“いくつになってもしっかりと立つ”ということは、私自身、若い頃から常に意識し努力してきたことなので」
近年のきくち体操ブームは凄まじい。テレビに出れば大反響。2019年に書籍の売り上げは累計200万部を突破。書店に行けばきくち体操コーナーがあり、新刊も続々と発売された。
「きくち体操は“自分を育てるための体操”と、私はお伝えしています。脳には、からだの各部から刺激を受ける場所が点在しています。意識を向けてからだを動かせば、脳は刺激を受けて活性化するのです。人間の筋肉は、動かさないとどんどん萎縮して動かなくなっていきます。関節も拘縮(こうしゅく)といって、どんどん固まっていきます。自分から動かそうと意識して動かさなければ、からだも脳も弱って錆びついていく一方です」
だからこそ、からだは“意識的に”動かしていかなければならない。といっても、激しい動きをするわけではない。床にすわり、手のひらと足裏を合わせて“手指と足指の握手”をしたり、足首を丁寧に回したり。ゆるやかな動きを丁寧に行うことで筋肉を育て、からだを生き返らせていくのだ。
「文明の進化によって、世の中は本当に便利になりました。いまやスイッチひとつで、機械が多くのことを代行してくれる時代です。でもテクノロジーがどんなに発達しても、人間が自分の足で立って歩くということに変わりはありませんから。便利さに甘やかされて生きているという自覚を持つことが必要なのです」
菊池さんの原点は、実はモダンダンスにある。