革命防衛隊は最高指導者に直属する精鋭部隊で、イラン国外での工作活動も行ってきた。イラクやシリア、レバノンやパレスチナなど中東各地で、軍事支援や戦闘活動を長年続けていた。標的は米軍だけではなく、イスラエルや過激派組織「イスラム国」(IS)など様々だ。その先兵となっていたのが革命防衛隊内のエリート組織「コッズ部隊」だった。

 ソレイマニ司令官は20年以上もコッズ部隊を指揮し、工作活動で成果を上げてきた。多くの一般市民が死亡する戦闘にも関わったとされる。米軍にとってはまさに「不倶戴天の敵」だが、ISへの戦闘では事実上共闘することもあるなど関係は複雑だ。ソレイマニ司令官はイラクの首相選びに介入するためイラクを何度も訪れるなど、その政治的手腕も注目されていた。

 こんな重要人物を、米軍はイラクのバグダッド国際空港の近くで1月3日未明に殺害した。乗っていた車両に無人機からミサイルを発射したとされ、同乗していたイラクのイスラム教シーア派武装組織の司令官らも死亡したとされる。

「われわれは戦争を止めるために行動した。戦争を始めるためにやったのではない」

 トランプ大統領は会見でこのように訴えた。ソレイマニ司令官は米国を襲うテロリストで、さらなる攻撃を計画していたとして、殺害の正当性を強調した。トランプ大統領はツイッターに星条旗の画像を投稿し、次のように書き込んだ。

「イランは戦争に勝ったことがないのに、交渉では負けたことがない」

 トランプ政権は、イランの核開発を制限する多国間の合意から2018年に離脱を表明するなど、強気の姿勢をとってきた。イランと交渉してきたオバマ前政権を批判し、自らは妥協しない強いリーダーだとアピール。星条旗も掲げ米国民の愛国心に訴えることで、支持率を上げる狙いがある。

 今回のタイミングでソレイマニ司令官を殺害したことについては、多くのメディアが今年11月に予定されている米大統領選との関連を指摘している。「ウクライナ疑惑」で米下院が昨年12月に弾劾訴追を可決し、支持率が伸び悩むなか、危機をあおることで求心力を高めようとしているという見方だ。

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「間違いなく報復」とイラン側も対決姿勢