「派手なアクションよりも、日常の、それこそ箸の上げ下げに深い感情を込めたい。相手役の女優さんの手に触れただけで、思いが通いあうような、そんな演技をしてみたい」

 そんなセリフで松田優作が龍平に憑依したかと思えば、あくまで息子は父と距離を置きながらという雰囲気もあり、そこはどこにでもある父と息子の会話にも思えた。

 松田優作が、高倉健、マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアらと共演したのが「ブラック・レイン」(1989年公開)で、これが遺作となった。

「僕はブラック・レインが成功しようがしまいが、これからはUSAで映画をやると思う。家族も向こうに連れていく。向こうで普通に暮らして、普通に映画やる。時には子供も撮影所に連れて行ったりな。(略)絶対そうするから、な、……待ってろ」

 この部分のリーディングで龍平の声が少し湿った気がし、父の優作が家族をどこまでも大切にし、家族もそれをわかっていたのだと感じ入った。

 年の瀬の、南青山のライブハウスMANDALAで、偶然松田美由紀さんと隣り合わせになり、「不在証明」という家族の物語が僕の心にまだ響いているとお話しした。優作さんが通ったバーは「レディジェーン」といい、下北沢にある。今度また訪ねてみよう。

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号

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