瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。『場所』で野間文芸賞。著書多数。『源氏物語』を現代語訳。2006年文化勲章。17年度朝日賞。
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横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

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■横尾忠則「長寿の秘密、隠していることあるでしょう?」

 セトウチさん

 世間が興味を持って怪しく思っていることはセトウチさんの元気で長寿の秘密です。長寿の秘薬でも飲んでいるのでは? と誰もが疑ってもおかしくないですよ。よく食べて、よくしゃべって、よく悪口を言って、よく書いて、よく眠って、だけではないでしょう? 他に何か隠していることがあるでしょう。こんな質問を読者を代表してぼくがお聞きします。

 97歳で現役で連載を何本も抱えて、これを全部こなすことのできるセトウチさんは化物(ばけもの)です。魑魅魍魎(ちみもうりょう)の古都にはそんな魔界の霊力の点滴薬を注入してくれる病院でもあるのですか、あるなら、ぜひ紹介して下さい。病院の好きなぼくなら長期入院も糸目をつけません。ねえ、皆さん、そう思いませんか?

 現実に話を戻しましょう。セトウチさんの意見を聞く前に、バリバリの老人ではない、チンピラ老人のぼくの場合はこうです。以前にもこの書簡で触れたかな? とも思うんですが、病気にならない元気のヒミツは先(ま)ずストレスのないことだと思います。ストレスのある人は何かにつけてピリピリしています。そのピリピリをはずせばストレスもなくなりますが、ピリピリ以前に、思うようにならないからピリピリするのです。そのピリピリの根源にあるのは人間の欲望、執着です。仏教徒のセトウチさんに代(かわ)ってしゃべっています。喝(か)!!

 ──とぼくは自分の経験を通してしゃべっています。そしてもうひとつ。生活のクリエイティビティです。創造というと芸術的に聞こえますが、何でもいい、想像したり、空想するだけでもいいのです。何故いいかというと、それらは全て遊びにつながるのです。遊びのない人はストレスが大きいです。では遊びとは何か? というと、役にたたんこと、大義名分的な、何かのためという目的を持たないことです。やっていること自体を目的にすれば、それそのことが、すでに遊びになっているのです。何かのために何かをやろうとするとそこには遊びがなくなります。

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