
ブランフォード・マルサリス10年目の総決算
Metamorphosen / Branford Marsalis
ブランフォード・マルサリス、3年ぶりの新作である。2000年代に入ってからのここまでを振り返ると、レギュラー・カルテット一色の10年間だったと言っていい。ピアノのジョーイ・カルデラッツォが新加入した2000年リリース作『コンテンポラリー・ジャズ』がグラミー賞を受賞。自己のレーベル、マルサリス・ミュージックを設立し、第1弾『フットステップス』ではジョン・コルトレーンとソニー・ロリンズの組曲をカヴァー。その後3タイトルを制作しており、この新作は同レーベル第5弾となる。
ゲストを迎えたり、ジャズ・ナンバーをカヴァーしたこともあったが、今回はメンバー全員のオリジナル・ナンバーだけで構成されているのが特色だ。来日公演やDVDを通じて視覚的にもカルテットの結束力と、パワフルなバンド・サウンドは広く知られている。リーダー作も数多いカルデラッツォや、リーダー/サイドマンの両面で多忙なジェフ“テイン”ワッツの2人が特に、外部活動の充実をカルテットにフィードバックする好循環を生んできた点が見逃せない。
タクシー運転手の父親に因んだワッツ曲#1は、80年代の新伝承派期から連綿と続く音楽性が顕著なアップ・ナンバー。今やアラフィー世代のブランフォードとワッツが、自分たちの出発点を忘れずに、現在も邁進する姿が頼もしい。そう言えば先日リリースされたワッツの新作『Watts』にはブランフォードが参加していて、さながら同派の同窓会的な趣もあったが、しかしシーンのトップ・ランナーを自覚した牽引力には唸らされた。ソプラノサックスを中心に霊的な空気感を醸成する様が、過去作で表明しているキース・ジャレット米国カルテットの音楽性と重なる#2、アルトサックスの使用と曲調に60年代オーネット・コールマンの影が認められる#3と、それぞれの楽曲が聴きどころを持っていて、バラードを含めてずっしりとした手応えが体感できる。カルテットの近況報告ばかりでなく、すべてをメンバーの手で作り上げたことを合わせて、10年目の総決算と見ることも可能な充実作だ。
【収録曲一覧】
1. The Return Of The Jitney Man
2. The Blossom Of Parting
3. Jabberwocky
4. Abe Vigoda
5. Rhythm-a-Ning
6. Sphere
7. The Last Goodbye
8. And Then,He Was Gone
9. Samo
ブランフォード・マルサリス:Branford Marsalis(ss,as,ts) (allmusic.comへリンクします)
ジョーイ・カルデラッツォ:Joey Calderazzo(p)
エリック・レヴィス:Eric Revis(b)
ジェフ“テイン”ワッツ:Jeff “Tain” Watts(ds)
2008年8月ノースカロライナ録音