ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は“断捨離”について。
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“断捨離”しても変わらないモノ
ユーチューブに“ゴミ屋敷”が多くアップされている。どの部屋もゴミに埋もれて、床が見えない。
わたしの仕事部屋にちょっと似ている。こちらもモノがあふれて、ところどころに服や本の塚ができている。これではならじ、と四、五カ月に一回は“いきなり断捨離”にとりかかるのだが、服を持てば「まだ着られる」、本を持てば「いつか読むかもしれない」と、またどこかにしまい込むから、モノの総量は減らない。
ちなみに、わたしの家は普通の一戸建だが、まともな部屋はすべてよめはんに占領されている。一階の十二畳と八畳の和室が日本画を描いているよめはんのアトリエ、八畳の和室がよめはんの寝室、六畳の洋室がよめはんのパソコン部屋、応接間にいたってはテーブルもソファもサイドボードも捨てられ、よめはんの絵と額で占拠されている。
では、わたしはどこにいるのか──。二階の屋根裏部屋だ。天井の低い十六畳ほどの洋室が仕事部屋、隣の六畳ほどの洋室が万年床の寝室というふうになっていて、この二部屋だけが、わたしに与えられた主たる生活空間であり、ここでオカメインコのマキと仲むつまじく暮らしている。
その仕事部屋だが、ふたつの机と六つの書棚とふたつのキャビネットを置き、掃き出し窓のそばに胡蝶蘭(こちょうらん)の鉢を並ベている。今日、数えたら三十鉢以上あった。これらはもともとよめはんが個展のときにもらったもので、花が散ると、「はい、これからはピヨコさんがあなたたちのお世話をしてくださるのよ。よろしくお願いします、ってご挨拶(あいさつ)なさい」ものいわぬ蘭にそういって鉢を置いていくから、あとはわたしが面倒をみる。屋根裏部屋だが南向きで日当たりがいいから、毎年、春になると花が咲く。
胡蝶蘭の隣には水槽が五つある。どれもグッピーが泳いでいて、二千匹はいる(グッピーは毎日、稚魚を産むから際限なく増える)。水槽は壁際にもふたつ置いていて、そのひとつにはサワガニがいる。