事件ルポの「定型」から逸れていったのは、裁判中に拘置所で男と面会してからだ。「妄想性障害」が悪化し、真相を聞き出すどころではなかった。これでは本にはならないと落ち込んだ。しかし、取材を進めるうちに、「村の噂の情報量の多さと、その噂を伝播するシステムがあるということがわかってきました」。

 犯行は「村八分」が原因というより、「陰口」や「噂」に被害妄想を募らせてしまった結果ではなかったか。高橋さんは、そうした過程を検証するために聞き込みを重ねていった。

 一度完成させた原稿をノンフィクションの賞に応募したが落選。あきらめきれずネットの投稿サイトに載せたところ注目され、出版にこぎつけた。読み物としての面白さは、「小劇場の舞台」を思わせるほどに濃い村人たちのキャラクターにある。個性豊かで、長話をしてもあきさせないあたり、柳田國男の伝承文学のようでもある。(朝山実)

週刊朝日  2019年11月15日号

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