だからあまり電話を代わりたがらない人も多いし、電話を代わっても上手く対応できなかったりする。そんな中でK藤さんは珍しくコールセンターに一筋のベテランで、元々オペレータからマネージャーまで上り詰めた叩き上げだった。
だから誰よりも電話対応が上手かったし、それに電話を代わってほしいと言うと彼女もいつも二つ返事で代わってくれた。それがとても心強かった。
そんなK藤さんにエスカレーションを頼むとき、彼女がいつも私に指示していたことがある。
その指示と言うのが、「『上司から電話を掛けると言っています』と言って折り返し対応にして」というものだったのだ。
私は指示された通りにお客様に説明し、折り返しの連絡先を聴いてから一度電話を切った。けれど、その指示がいつも不思議だった。
相手はものすごく怒っているお客様なのに、すぐに対応しなければもっと怒ってしまうんじゃないだろうか?
ところが「折り返しにしました」と案件を持っていっても、K藤さんはすぐに電話をかけない。手元にあった仕事を片付け、時には一服しに行ってしまう。私はいつ電話をかけるんだろう、とハラハラしながらK藤さんを見ていた。
けれど私の不安などよそに、下手したら忘れていたのでは? と思うようなタイミングになってからK藤さんはお客様に電話をかけていた。
なのにK藤さんが電話をかけると、嘘みたいにあっさり話が片付いてしまうのだ。
私が思わず「なんでそんなに簡単に収まっちゃうんですか!?」と駆け寄ると、K藤さんは「聴いてみる?」と言って音声を聞かせてくれた。
私は録音された音声を聴いて驚いた。私と電話をしていた時には怒鳴り、威圧し、乱暴な言葉を使っていたお客様が、K藤さんの電話に出たときは嘘みたいに大人しく会話をしていたのだ。
あまりの変わりように「え? これ別人が出ているのでは」と思ってしまったほどだ。訝しむ私にK藤さんはこう教えてくれた。