デクラレイション/ダニー・マッカスリン
デクラレイション/ダニー・マッカスリン
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理想のバンドと楽曲で爆発だ!
Declaration / Donny McCaslin

 個人的にウォッチし始めたのは数年前から。ダニー・マッカスリンは日本ではアンダーレイテッドに甘んじているサックス奏者である。1966年カリフォルニア生まれ。ローカル・ミュージシャンだった父親の影響を受けて、12歳に初ステージを経験。バークリー音大で学び、91年にステップス・アヘッドに加入した。ギル・エヴァンス、ジョルジュ・グルンツ、マリア・シュナイダーといった第一級ビッグ・バンドでの豊富なキャリアが、テナー・スキルを磨いたことは間違いない。

 これは98年の初リーダー作から数えて8枚目となる最新作だ。特筆すべきは楽器編成。ギターを含むクインテットを基本に、最大5名からなるブラス・セクションを起用している。すべての作・編曲をマッカスリン本人が手がけており、中型編成のコンセプト・アルバムに挑んだという点で、新たなステージに踏み込んだと言っていい。

 理想とするバンドと、それを最大限に輝かせるための楽曲を手に入れた喜びが、演奏で爆発している。自信に溢れたテナー・サウンドは、これまでにも増して「説得力ある音楽の見本」を示す。バンド・サウンドで盛り上がり、その後ピアノ・ソロでクール・ダウンしてエンディングへと向かう#1の構成力に唸った。さらにふくよかなホーン・アンサンブルの#3へ進むと、マッカスリンが本作で目指したものが浮き彫りになる。マイケル・ブレッカーの2003年作『ワイド・アングルズ』を想起させるサウンド・コンセプト。同作は金木管+弦楽四重奏のクインデクテットの起用により、マイケルが新境地を印象付けたわけだが、弦カルこそ不在であるもののラージ・アンサンブルと共にテナーが主役を演じる点で、本作はマイケルの実績を踏まえてマッカスリンが独自のアイデアを展開させたものと考えられるのだ。

 もう1つ指摘しておきたいのが、バンドのボトムを担う2リズム。スコット・コリー+アントニオ・サンチェスは、近年チームを組む機会が多く、去る6月に取材した「バンクーバー・ジャズ・フェスティヴァル」でのケニー・ワーナー・クインテットでも、いい仕事ぶりを見せてくれた。一段と逞しさを際立たせるマッカスリンの代表作である。

【収録曲一覧】
1. M
2. Fat Cat
3. Declaration
4. Uppercut
5. Rock Me
6. Jeanina
7. 2nd Hour
8. Late Night Gospel

ダニー・マッカスリン:Donny McCaslin(ts,fl) (allmusic.comへリンクします)
エドワード・サイモン:Edward Simon(p,org)
ベン・モンダー:Ben Monder(g)
スコット・コリー:Scott Colley(b)
アントニオ・サンチェス:Antonio Sanchez(ds)
2009年1~2月ニューヨーク録音