西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「宜候(ようそろ)」。
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【ポイント】
(1)老人にはまだまだやれることがある
(2)ただ、若者のような速さ、機敏さはもうない
(3)ゆっくりじっくり真っすぐに進もう
人生後半の生き方を考える上で参考になる本としては、貝原益軒の『養生訓』がまず思い浮かぶのですが、もうひとつ欠かせないのがローマの政治家・哲学者キケローの著書『老年について』(岩波文庫、中務哲郎訳)です。
彼はこのなかで、老年が惨めなものと思われる理由を四つあげたうえで、その一つひとつに反論を展開します。つまり、老年は惨めではないということを主張した本なのです。
その四つとは以下のようなものです。
(1)老年になると公の活動から遠ざけられる
(2)老年になると肉体が弱くなる
(3)老年になるとほとんど全ての快楽が奪い去られる
(4)老年になると死から遠く離れていない
いずれもナイス・エイジングのためには克服すべきテーマです。今回はこのうち(1)について考えてみたいと思います。
キケローは(1)について「まともな議論をしていない」と言い切った上で、老人が何もしていないというのは、「船を動かすにあたり、ある者はマストに登り、ある者は甲板を駆け回り、ある者は淦(あか)を汲み出しているのに、船尾で舵を握りじっと座っている舵取りは何もしていない、と言うようなものである」と語ります。そしてこう主張します。
「(老人は若者より)はるかに大きくて重要なことをしているのだ。肉体の力とか速さ、機敏さではなく、思慮・権威・見識で大事業はなしとげられる。老年はそれらを奪い取られないばかりか、いっそう増進するものなのである」
確かにその通りです。大政治家のキケローのように大事業とはいかないかもしれませんが、まだまだやれることがあります。