たとえ遠回しな言葉でも「能力が低いから」といった言葉を浴びせられれば、言われた相手は一生覚えていることもある。それがのちに“つまらない仇”になって返ってこないようにするためにも、相手の気持ちを配慮して発言する習慣を身に付けておくべきなのだ。
そして若い人の話をおもしろがって聞く姿勢も日頃から心がけて、と語るのは経済コラムニストの大江英樹さん。
「あんな若造の話なんか聞いていられるか、なんて気持ちを持ってはいけません。特に定年後は、傾聴力があるかどうかで人生が変わってきます。他人の話など聞かないで自分の話をしたがるのが年寄りの特徴ですが、そればかりだと間違いなく嫌われます」
大江さんの知人で2年前まで現役で働き、いまは保育園で保育士の補助をしている70歳の男性がいる。
「その彼はまさに聞き上手。なので、いつもたくさんの若い人たちから慕われています。彼の名言がありましてね。『年寄りとばかりつきあってると、病気の話とお墓の話と孫の自慢話ばかりになっちゃうよ』(笑)」
定年後の生き方について数々の著作のある大江さんは言う。定年後は自分はただのジジイで、それ以上でもそれ以下でもないという自覚を持つこと。ひとりのオッサンとして、人にものを教えてもらったりすることも大事。そして何より肝心なのは相手が男性であろうが女性であろうが、年下であろうが年上であろうが、リスペクト(尊敬)する気持ちを持って接すること。
「サラリーマンの場合、定年前後は自分のあらゆる権力がなくなり、周囲から人が離れていくときです。部下にしてみれば、“終わった人”の機嫌をとる必要はまったくないわけですから。でもそこで『俺は結局、孤独だなあ』と涙ぐんでも仕方ないでしょう。定年までに権力構造に関係のない人間関係を作っておかなかったのなら、それは自分の責任。ここから自分を変えていくことが、老後の孤独を遠ざける唯一の方法です」
それまで会社優先で配偶者を大事にしてこなかったのであれば、配偶者に対する態度も改める。きょうだいとの関係も、若いころの心ないマウンティングでぎくしゃくしているなら、こちらから修復していくこと。