
「こういう作品を作れる時代がやって来た」
The Mosaic Project / Terri Lyne Carrington
9月5日、《東京JAZZ 2010》最終日に出演したテリ・リン・キャリントン:モザイク・プロジェクトのステージを観た。ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーター等のバンドで経験を積み、1960年代生まれの筆頭格の地位を確立した女性ドラマー。本作は幅広い人脈を築いてきたキャリントンの、前例のないコンセプトによるアルバムだ。ピックアップ・メンバーによる来日公演は、パワフルなビートでメンバーを鼓舞するドラマーとしてはもちろんのこと、一枚看板のミュージシャンが集ったバンドを率いる強力なリーダーシップを印象付けられた。
バンドの核となるスリー・リズムにジェリ・アレンとエスペランサを起用したのが心強い。M-Base派出身で伝統と革新の双方向を実践してきたアレンと、世界中から注目を集める今が旬の新世代ベーシスト=エスペランサ。共にアコースティックとエレクトリックの両方を自由に行き来してきた実力者だ。
ピアノを主軸にアルト、フルート、バスクラ(アナ・コーエン)が絡みながら展開する#1、ステージでは巧みなアタッチメント使いを見せたジェンセンと、ソプラノのポスマが主役を演じる#4、ポリリズミックなドラムスと管楽器のコンビネーションがスリリングな#11と、いずれもキャリントン作曲のインストゥルメンタル・ナンバーには、リーダーのコアな音楽性が色濃く反映されている。
本作の特徴の1つが7名ものヴォーカリストが参加していることで、ヴァラエティの豊かさも特筆ものだ。ステージでは年齢を感じさせないパフォーマンスで、キャリアを際立たせたノナ・ヘンドリックスの#2、アフリカンなアレンジでメッセージ性の強いダイアン・リーヴスの#3、ビートルズ・ナンバーをコンテンポラリーなボーカル&インスト・ヴァージョンに仕立てたセンスが光るグレッチェン・パーラトの#7、カサンドラ・ウイルソンの魅力を十分に引き出した#8、ディー・ディー・ブリッジウォーターが懐の深さを見せる#9。
若さ、美貌、歌唱力の三拍子をステージで実証したブラジル音楽界の超新星パトリシア・ロマニアは、#12をしっとりと歌唱。2曲で歌うエスペランサは独自のヴォーカリーズ風スタイルで、ベーシストにとどまらない若き才能を輝かせる。
「音楽の世界も社会を反映したものであるべきだと思っているし、そんな中にあってこういう作品を作れる時代がやって来た」(キャリントン)との自負に違わぬ内容の力作だ。
【収録曲一覧】
1. Mosaic Triad
2. Transformation
3. Echo
4. Wistful
5. Crayola
6. I Got Lost In His Arms
7. Michelle
8. Simply Beautiful
9. Soul Talk
10. Unconditional Love
11. Insomniac
12. Cacadores De Emocoes
13. Show Me A Sign
テリ・リン・キャリントン:Terri Lyne Carrington(ds) (allmusic.comへリンクします)
イングリッド・ジェンセン:Ingrid Jensen(tp)
ティネカ・ポスマ:Tineka Postma(sax)
ジェリ・アレン:Geri Allen(key)
エスペランサ・スポルディング:Esperanza Spalding(b,vo)
2010年6~7月録音