『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』(EmArcy)
『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』(EmArcy)
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『スターダスト』
『スターダスト』
『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』
『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』

●ジャズという音楽の本質

 ジャズマンはみな楽器が巧いという思い込みがファンにはあるが、落ち着いて考えてみると話はそれほど単純ではない。ジャズ喫茶で支持されたジャッキー・マクリーンなどは、決してテクニックで人気を得たわけではない。また、クラシック畑からも認められた超絶技巧の持ち主ウイントン・マルサリスは、その技術に見合った評価を受けているかというと、それも微妙だ。ファンは、場合によっては少々ヘタでもそのミュージシャンならではの個性を愛し、いくら演奏が巧みでも、味気ない、無機的だ、などと言って敬遠することがある。だが、こうした一見気まぐれな判断は、ジャズという音楽の本質を突いているとも言えるのだから、難しい。

●圧倒的テクニックとその評価

 そうした中で、圧倒的テクニックがそのまま評価に結びついた幸せなケースが、クリフォード・ブラウンだろう。誤解を恐れずに言えば、純粋にトランペットを吹き鳴らすという一点に限れば、マイルス・デイヴィスですらブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)には一歩譲るだろう。もちろん、冒頭で触れたようにジャズはテクだけでないので、「音楽性」などという説明しにくい要素を含めれば、やはり総合評価はマイルスが一枚上手だ。

 しかし考えようによっては、クリフォード・ブラウンの場合は、彼のハイテクニック自体がジャズという音楽の「音楽性」と結びついているとも言えるだろう。これは、そこのところが「微妙」なウイントン・マルサリスの演奏と聴き比べてみると一番良くわかる。材料は、明らかにウイントンがクリフォード・ブラウンを意識して作った、ストリングスとの共演盤『スターダスト』(CBC)と、『クリフォード・ブラウン・ウイズ・ストリングス』(EmArcy)だ。

●テクニック自体がもうジャズ

 マルサリスが冷徹にテクニックを通して《スターダスト》という曲を表現しているのに対し、ブラウニーの場合はテクニック自体がもうジャズなのだ。それにもかかわらず、ファンは名曲《スターダスト》を聴いたという気分に浸れる。つまりクリフォード・ブラウンは、ジャズ的表現と彼の個性、そして演奏曲目が分かちがたく結びついている。そこが彼の強みだ。

 実を言うとこれは、ハードバップという考え方を極めて象徴的に現しているともいえる。ハードバップの原型であるビ・バップは、どちらかというと演奏曲目はアドリブをとるための素材としての要素が強い。だから、聴き手も曲を聴くというより、パーカーやらガレスピーの超絶技にシビれていた。それに対し、ある意味ビ・バップの洗練形態であるハードバップは、ジャズの重要な要素であるアドリブの魅力はそのままに、曲想の魅力という音楽の「常識」もうまく取り込んだのである。

●典型的なハードバップの名盤

 今回ご紹介する『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』は、ミュージシャンの個性、ジャズ的スリル、そして曲想の魅力が渾然一体となったクリフォード・ブラウンの代表作であるとともに、典型的なハードバップの名盤である。

 クリフォード・ブラウンの経歴に触れておくと、1930年デラウエア州ウイルミントンに生れたブラウニーは、13歳でトランペットを手にする。大学は意外なことに数学科で、後に他の大学の音楽科に進んでいる。フィラデルフィアのジャズシーンで演奏をはじめ、バップ・トランペットの巨人、ファッツ・ナヴァロに引き立てられる。

 1952年プロ・ミュージシャンとなり、タッド・ダメロン楽団、ライオネル・ハンプトン楽団に在籍。その後54年にドラムスのマックス・ローチと双頭バンドを結成し、エマーシー・レーベルに多くの傑作を録音している。今回紹介したアルバムもそのうちの1枚。1956年、ハードバップが頂点を迎えたとき、交通事故のため惜しくも亡くなってしまった。 もし彼がもう少し長生きしていたら、マイルスの一人天下を脅かしていたかもしれないと思うと残念だ。

【収録曲一覧】
1. デライラ
2. パリジャン・ソロウフェア
3. ザ・ブルース・ウォーク
4. ダフード
5. ジョイ・スプリング
6. ジョードゥ(エディット・ヴァージョン)
7. ホワット・アム・アイ・ヒア・フォー
8. ジョイ・スプリング(別テイク)
9. ダフード(別テイク)

クリフォード・ブラウン:Clifford Brown (allmusic.comへリンクします)

→トランペット/1930年10月30日 - 1956年6月26日

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