フィンウェル研究所代表の野尻哲史さんが、「定年後の生活」について綴る「夫婦95歳までのお金との向き合い方」。今回は「現金・預金」のリスクについて。
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7月1日は毎年、国税庁が相続税などの算定基準となる路線価を発表します。2019年分の路線価は全国約32万カ所の標準宅地で前年比1.3%のプラスとなり、これで4年連続の上昇となりました。
相続税の算定基準といわれると「上がらないでほしい」と思う方もいらっしゃるでしょうが、地価が上がるといえばなんだかうれしい気もします。われわれ日本人にとって土地はある意味で大きな資産という理屈がしみ込んでいるからかもしれません。
皆さんは「個人金融資産」という言葉をご存じでしょう。「巨額な資産を日本人全体で保有している」「そのうち半分以上が現金・預金で、これを“貯蓄から投資へ”動かす必要がある」。こんな話を聞かれたことがあると思います。
しかし、この個人金融資産に個人が保有している土地の評価額を加えた「個人資産」を見聞きしたことは少ないと思います。これは国民経済計算という政府の統計を使って調べることができます。
国民経済計算に計上されている個人金融資産は、日本銀行の統計とは少しずれがありますが、1990年の994兆円から2017年には1900兆円強へと、バブル経済崩壊以降も増え続けてきました。この数値だけをみると、失われた30年もどこ吹く風に映ります。
しかし、土地の評価額を加えた「個人資産」でみると、様相は全く違ってきます。バブル経済のピークでは、個人資産は2480兆円に達し、その6割が土地でした。その後、急落して17年には27%にまで低下しています。
一方で急増したのが現金・預金で、37%にまで高まっています。この統計でみると、土地と現金・預金が逆転したのが04年でした。そして17年の「個人資産」は2611兆円で、この30年間ほとんど日本の国民の富が増えなかったことを示しています。