ライヴ・イン・ニューヨーク/アントニオ・サンチェス
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バンドのピークを記録した2枚組
Live In New York / Antonio Sanchez

 パット・メセニー・グループの2002年作『スピーキング・オブ・ナウ』で登場した時のアントニオ・サンチェスは、まさに衝撃的の一言だった。特にライヴではテクニックはもちろんのこと、超人的なスタミナが要求されるポジションを、前任者のポール・ワーティコ以上にこなしているのだから、いきなり凄いドラマーが現れたものだと、驚くばかりだったのである。

 パットとはトリオ・プロジェクトでも共演したアントニオは、マイケル・ブレッカー(クインデクテット)、ゲイリー・バートン、ダイアン・リーヴス等のレコーディングに参加し、スーパー・ドラマーの実績をたちまち築き上げてゆく。2007年には初リーダー作『マイグレーション』を制作。パットやチック・コリア(直後にアントニオはトリオでレコーディングとライヴに協力)をゲストに迎え、20代末まで音楽の勉学に励み、プロ入り後は多くの著名人との交流を通じてスキルを伸ばしたキャリアを好ましく反映させる仕上がりとなった。2007年夏のアントニオはジョシュア・レッドマン・トリオの一員として欧州をツアーしており、ストックホルムのジャズ・クラブでは場内超満員の中、2時間休憩なしのステージを立ち見で体験したのが個人的な思い出だ。ジョシュアとの共演はテナー奏者と共に作るサウンド、という点で学ぶところが多かったはずだ。

 3年ぶりのこのリーダー第2作は、前作から1年9ヵ月後にレギュラー・バンドで出演した時のクラブ・ライヴである。編成のコンセプトは基本的に前作を踏襲しており、2テナー+ベース+ドラムスだったのが、アルト+テナーの2サックス・クァルテットに変わったもの。この変更はミュージシャンの個性の違い以前に、音域の異なる2サックスが生み出すサウンドの妙を狙ったことは間違いあるまい。ダヴィッド・サンチェスは前作からの続投で、アルトのミゲル・ゼノンとはサンチェスが2枚のアルバムに参加した関係だ。つまりそれまでにアントニオがレコーディングやライヴで実力と音楽性を肌で感じ、信頼を寄せていたベスト・メンバーと共に、「バンドのピークを記録しておきたかった」ことがアルバム制作の動機だった。

 ゼノンがアルト・ソロで燃えると、それを引き継いだダビッドもまた燃え上がり、両者の掛け合いがやがて合体へと展開するカタルシス。ほとんどの楽曲が10分を超えており、場面転換が連続するプロセスの中で、臨機応変にリズムを変化させながら音物語の道筋をデザインしてゆくアントニオのプレイに感嘆する。充実の2枚組だ。

【収録曲一覧】
Disc 1:
1 Greedy Silence
2 H And H
3 Ballade
4 Revelation

Disc 2:
1 It Will Be Better
2 Did You Get It
3 The Forgotten Ones
4 Challenge Within

アントニオ・サンチェス:Antonio Sanchez(ds) (allmusic.comへリンクします)
ミゲル・ゼノン:Miguel Zenon(as)
ダヴィッド・サンチェス:David Sanchez(ts)
スコット・コリー:Scott Colley(b)

2008年10月NY録音

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