男性のように先妻の子に自宅を引き継がせたいが同居する後妻の処遇が気になるといったケースでは、「来年4月から施行される配偶者居住権を活用する方法もあります」と、税理士法人レガシィ統括パートナー税理士の田川嘉朗さん。
現行制度では残された妻がそのまま自宅で暮らすには、「妻自身が自宅を相続する」か、「自宅を相続した子と賃貸借契約または使用貸借契約を結ぶ」必要がある。しかし、配偶者に自宅に居住し続ける権利を認める配偶者居住権の創設(来年4月)で、妻には夫の死後、「自宅を所有せずに引き続き住み続ける」という第3の選択肢が生まれる。先のケースであれば、後妻に自宅の配偶者居住権、長男に所有権を相続させる。これにより自宅の土地や家屋は長男に引き継がれる一方、妻は住み慣れた家で暮らす権利を得る。居住権の期限は原則終身だが、遺産分割協議などで一定期間とすることも可能だ。
■ケース2 妻の死後に自宅を妻の親戚に渡したくない
東京都の元会社役員の男性(70)は、両親の残した郊外の一軒家に専業主婦の妻(70)と2人で暮らす。子どもはおらず、セミリタイアした現在は妻と一緒に、共通の趣味だという旅行や食べ歩きを楽しんでいる。
自身の相続を意識しだしたのは、一昨年、妻の叔母が亡くなってからだ。叔母の亡夫一族は東海地方の素封家。叔母夫婦には子どもがいなかったため、不動産や預貯金、株式などの一部が妻の元に転がり込んできた。妻は「棚ぼたってこういうことを言うのよね」とあっけらかんとしていたが、男性は複雑な気持ちになったという。
「平均余命を考えれば、私よりも妻のほうが長生きするはずです。私の死後は妻が自宅を含めた全財産を相続する、そこまではいいんです。でも、妻の死後にはそれが妻の親戚の手に渡るのかと思うと冷静ではいられません。預貯金はともかく、自宅は私が親から受け継いだものですから、私の弟や甥・姪が相続するのが当然でしょう」