お堀の泥をかき分け危険物を探す。梅雨時のヘドロは粘りが緩く探索も楽だ。今日はいつもより早く任務が終わった。「異常なし!」上司に報告し終えると、チームの若手・堀込が不満げな顔をしている。彼は信州・松本城の警備を任された家の三男で、1カ月前に大阪に転入してきたばかりの生真面目な男だ。
「……本当に大丈夫でしょうか?」「何か気になるか?」「丸太橋の上手から3本目の柱、底から80センチの8時の位置に3センチ弱の黒く丸いものが……」「タニシだろ」俺は即答した。俺も見たが、あれはタニシだ。「タニシにしては光沢がキツいような……」「タニシだ」「自分は疑問に感じます!」堀込は俺を睨んだ。「タニシ!」「違いますっ!」「強情だな……よし、採ってこい! だがあれは絶対にタニシだっ!」「行ってきますっ!」お堀に飛び込むとすぐに堀込が戻ってきた。手のひらには黒いかたまり。どう見てもタニシ……。
「やっぱりタニシじゃないか(笑)」「確かめますっ!」と叫ぶと堀込はその不審物(たぶんタニシ)を口に含んだ。その瞬間、私の目の前に堀込の頭部が爆風と共に吹き飛ぶさまがよぎった。「よせっ! 早まるなっ!!」「ゴリ……」硬いものが歯で砕ける嫌な音。「おえ~! やっぱりタニシ(笑)」一同の笑い声。だが俺は笑えない。もし爆発物だったら堀込は死んでいた。それは堀込の疑念を軽んじた俺の責任だ。「バカヤロウっ! 万が一のことを考えろっ!!」「はい! 以後気をつけます!」堀込の目はまた俺を見据えていた。こいつは全てわかった上で俺を試している……。俺にもいい好敵手ができたようだ。
「すまん、みんな。もう一度潜水服を着てくれ!」俺はそう叫ぶと皆より先にお堀に飛び込んだ。すぐさま堀込が後に続く。妻よ、今日は帰りが遅くなる。
23年後のG25では長男・潜が堀込の部下として加入します!!
※週刊朝日 2019年7月19日号