落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「G20」。
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G20が無事閉幕した。テロ対策を伝えるニュースで、大阪城のお堀の中をダイバーが潜って不審物を捜索していた。あるモノを探すんじゃなくて、本来ないモノを『あるかも!』と探すのは大変だなぁ……と思う。潜水専門の警察官なのかな? あの人たちの人生を妄想してみた。
俺はダイバーだ。俺の親父もダイバーだった。祖父さんも。俺は代々大阪城のお堀の警備を司る家に生まれた。ご先祖様は真田家に仕えた忍びだ。今は大阪府警直属で大阪城周辺の機密任務を請け負っている。お堀の探索は謂わば「お家芸」。幼いころから鍛えられているので水の中はお手のものだ。だがこの仕事が難しいのは「ないモノを探し出す」というところ。あるモノを探して見つけるのは誰でもできる。ないモノを探し尽くし「やはりない」という『確固たる安心』を得るのが任務の完遂となる。危険物はないに越したことはない。が、果たして本当にないのか……という深みに嵌まると我々は陸には上がれない。
「行ってくる」軽く抱き寄せると妻は今生の別れのように「気をつけてね……」と囁いた。奥の部屋では3カ月になる長男の潜(もぐる)が泣いている。「帰りはそう遅くはならないよ」
潜は堀端家の十三代目だ。妻は息子には好きな人生を歩んで欲しいと言う。一応俺も妻に同調するが、親子二代でお堀に潜るのも悪くはない(笑)。