今年でちょうど100周年を迎えた韓国映画界に対して、5月のカンヌ国際映画祭が最高賞のパルムドールを与えた。受賞作品の監督ポン・ジュノは、主演俳優ソン・ガンホと組んで、これまで多くの傑作映画を世に送り出し、2人で韓国の観客動員記録を塗り替えてきた。
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加えて、このポン監督と俳優ソン・ガンホの名コンビは、2人とも、朴槿恵(パク・クネ)政権時代に韓国の芸能界を襲った「反政府ブラックリスト」事件の被害者でもあった。2人が、韓国の庶民の感情をストレートに代弁する映画人だったので、韓国政府にとって“気に入らない人間”であり、弾圧しなければならない文化人のブラックリストに入れられたわけである。
それにしても、このように映画人に非人間的な圧力を加える韓国政府にはあきれて言葉も出ないが、3年前の2016年にその朴槿恵大統領が女友達の「操り人形」だったことが暴かれると、史上空前の韓国民のロウソク・デモが燃え上がって、2017年5月、人権弁護士の現在の文在寅(ムン・ジェイン)新政権が生まれた。
その年、ソン・ガンホ主演のセミドキュメンタリー映画『タクシー運転手』が公開されると、韓国内で観客1200万人というとてつもない数の人間を映画館に動員したのだ。韓国の人口は、日本のほぼ半分で、5100万人なので、日本でいえば2400万人が映画館におしかけた、というほどの名作であった。
本稿を『テレビ報道の深刻な事態』と題したのは、日本のテレビ報道に携わる大半の人が、こうした韓国政治文化界の激動とも言える重大な事実を知らずに生きていることを知った小生がビックリして、同名タイトルの原稿をアンダーグラウンドの世界で発表したところ、大きな反響があったので、週刊朝日にその原稿を紹介しろと言われて書いているわけである。
映画『タクシー運転手』が描いた大事件をくわしく述べると、今を去る40年ほど前、1980年5月18日から韓国南部の大都市・光州(クァンジュ)市で、民主化を求める地元出身の政治家・金大中(キム・デジュン)=のちの大統領=が内乱陰謀罪で拘束されたことに抗議する反政府デモがこの写真のように激化した時、大量の市民が機動隊と衝突し、その後、韓国政府軍に虐殺されたのである。戦後の韓国史の中でも特筆されるべき大事件であった。