デビューから15年。昨年、本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』をはじめ、幅広い年代の葛藤を描く辻村深月さん。同郷山梨出身の先輩作家の林真理子さんが、作家になるまでの道のりや女性作家にとっての結婚などに迫ります。
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林:ご主人とは山梨にいるとき知り合ったの?
辻村:そうです。学生時代から知っていた人で、専業作家になったときぐらいに結婚しました。
林:辻村さんは千葉大の教育学部ですよね。早稲田の文学部みたいな、作家養成大学みたいなのはイヤだったんですか。
辻村:ミステリー小説の愛好会とか同好会がある大学を調べて、それが千葉大にあったのと、私、両親が公務員なんです。両親に逆らって生きてきたと思ってはいるものの、それでも公務員を目指す方向に行ってしまって、なぜか学校にかかわる仕事がしたいと思って、それで教育学部に進みました。
林:卒業後は山梨に戻ってOLやってたんですよね。
辻村:はい、甲府で。
林:どんな職種だったんですか。
辻村:事務職ですね。県の関係の団体職員だったんです。
林:そのまま東京で就職しようとは考えなかったんですか。
辻村:作家になりたいという気持ちが強くあって、できたら在学中にデビューして、女子大生作家になりたいと思っていたんです。でも、それがかなわなかったので。
林:新人賞とか応募しなかったんですか。
辻村:応募しなかったんですよ。そのとき書いていた小説が長すぎて、応募規定の枚数内のものを書いてなかったんです。東京に残って働きながら作家を目指すという道を考えていたときに、実家から「団体職員の応募があるから受けてみないか」と言われて、「ひとまず受けるだけ」と受けたら受かったんですよね。家族全員、私が作家になりたいことを知っていたので、「ひとまず帰ってきて、地に足をつけたところで夢を見ればいいじゃない」って言われて。
林:実家暮らしは最高ですよね。
辻村:父も母も、このまま作家になるとは思ってなくて、帰ってきてしまえばこっちで結婚して、子どもを産んで、その面倒を自分たちで見て……と考えていたと思うんです。だけど父は作家になることを応援してくれていて、妹が就職のことで悩んでいたときにも、「お姉ちゃんみたいに、一度就職して、夢を目指し続けるという道もある」と言っていたと後から知って、信じてくれていたんだなと思いました。