樹木希林さんとは、よく一緒にテレビを観ていた浅田美代子さん。女性犯罪者がワイドショーを賑わすたびに、樹木さんからは「明るいお母さん役もいいけど、そろそろ、こういう女を演じてみるのもいいんじゃない?」と言われた。そのたびに浅田さんは、「私には(話が)来ないわよ」と、軽く受け流していた。
「希林さんとは、デビュー作の『時間ですよ』から『寺内貫太郎一家』のシリーズも含めて、一緒にいる時間がすごく長かった。以来、仲良くさせていただいていたんですが、希林さんの中では、私に対して、『演出家の久世(光彦)さんの元で揉まれたことをもっと生かせるんじゃないか』という思いがあったのでしょうか。特に、『釣りバカ日誌』のあと、私に、役者としてもう一歩進んでほしいと思っていたようです」
2017年に巨額の投資詐欺を働いた女性の事件が連日報道された。そのときも、樹木さんは、「これ、できるんじゃない?」と言った。
「『そうねぇ』なんてこのときも軽く流していたら、希林さんが、映画化に向けて水面下で動いてくれていたんです。『プロデューサーは奥山和由さんで、監督の日比(遊一)さんは、高倉健さんのドキュメンタリー映画を撮っている人で』とか。スタッフを全部決めてくれた上で、私には『撮影時間もあまり取れないし、キツいと思うけれど、ちょっとここで踏ん張りなさい』と。本当の愛情でやってくれたんだなと思いました」
「エリカ38」というタイトルも、樹木さんが決めた。演技に関しては、1カ所だけアドバイスがあった。
「私、動物愛護の活動もしているんですが、『そのときはすごくきちんとしゃべってる』って希林さんは言うんです。だから、『投資詐欺を働くときは、動物愛護の活動をしているときの、本気の感じでやって』と。久世さんからも、『ト書きに、“泣く”と書いてあってもそれは無視していい。形で泣く演技をするのは良くない。気持ちさえあれば、涙なんか出なくても伝わるんだから』と言われましたけど、考えてみれば、言ってることは同じなんですよね」