脳研究者の池谷裕二さんが、いまもっとも気合を入れて執筆しているエッセーは、本誌連載の「パテカトルの万脳薬」だという。その連載をまとめた文庫版『パテカトルの万脳薬 脳はなにげに不公平』が5月13日に発売された。ブックデザインを手がけた寄藤文平さんと、脳の「ふしぎ」について縦横無尽に語り合った。
【文庫版『パテカトルの万脳薬 脳はなにげに不公平』はこちら】
* * *
池谷裕二(以下、池谷):寄藤さんがはじめて装丁を手がけられた本が、私と糸井重里さんの対談『海馬 脳は疲れない』でしたよね。15年以上前のことですが、ご自身としては、その頃と比べて、デザインの発想の仕方は変わったと感じますか?
寄藤文平(以下、寄藤):経験は大きい気がしますが、デザインを決めていく思考方法は変わらない気がします。タイトルなどから思い浮かぶ映像が半分見えている状態で、それを浮かべながら「こういうモチーフで表したら良さそうだ」と思うものを言葉で補足して、輪郭をはっきりさせていくという方法です。
池谷:基本はフィーリングだけれども、理屈もある。そうやって完成形に落ち着くんですね。
寄藤:そうですね。それが交互ではなく、ほぼ同時並行なんです。理屈でも追いかけているし、映像でも追いかけている。その全体を遠くから見ている感じもあります。
池谷:デザインを考えているときに寄藤さんの脳の中で起きている、同時に複数の物事が存在する状態というのは、数学でいうところの量子コンピューティングの計算原理に似ていますね。今のコンピューターはノイマン式で「0」と「1」しかない。でも量子コンピューティングというのは状態を確定しないままだからこそ複雑な計算を高速で一気に行うことができるんです。
寄藤:そうですか。量子コンピューティングしているんですね(笑)。デザインを考えていくときには、理屈を逆算していく過程もあるんです。「これでいけそう」という感覚を掴んだら、必ず、その感覚が間違っていないかを逆算していきます。