私の話もした。高校1年の時、初めてのアルバイトは近所のスーパーだった。初日、「魚の捌き方を教える」と言う店長に背後から抱きつかれ手を握られ完璧に密着した状態で魚を捌いた。お尻に硬いものがあたった。翌日から私はアルバイトをやめ、「一日しか続けられなかったね」と家族に笑われても本当のことを言えなかった。その後も長い間、誰にも言わなかった。なぜなら私は逃げなかったし、自意識過剰かもしれないし、証拠はないし、加害者を逮捕できるわけでもないし。そんなふうに思ったからだろう。それは被害者に向けられる社会の視線を、高校生なのに十分知っていたということなのだろう。
被害者に沈黙を強いることでなかったことにされてきた性暴力。今、世界中であげられた声が、世界中の女性たちの記憶の蓋をあけている。その声が、もう黙らない、もう諦めない、という声が希望のある未来をつくっていけるのだと信じたい。「同意のない性交はレイプだ」「不利な状況に置かれることが強制だ」。その当たり前を誰もが感じられる社会に生きたい。
※週刊朝日 2019年4月12日号