
●ジャズの名盤を生み出した大手レコード会社の知られざる歴史と物語
米コロンビア・レコードは、フランク・シナトラやビリー・ホリデイからジャニス・ジョプリンやマイケル・ジャクソンにいたるまで、きわめて多彩な才能と個性を過去100年以上にわたり発掘し、育成してきた。
本書『ザ・レーベル』は、著者の徹底したリサーチに基づき、その名高いメジャー・レーベルがリリースした画期的な音楽にまつわる知られざるインサイド・ストーリーを伝える。ちなみに著者ゲイリー・マーモースタインは、私信や覚書、レコーディングの契約書やセールスの報告書、業務日誌、また、マイルス・デイヴィスやデイヴ・ブルーベックなど著名ジャズ・ミュージシャンが録音したテープを数多く有するプロデューサー=テオ・マセロ・コレクションから見い出した豊富な音楽的・文学的な資料を詳細に調査している。
コロンビア・レコードの音楽は、アーティスト自身によって制作されたばかりか、彼らを扱う人々、すなわち経営陣、プロデューサー、A&Rマン、アレンジャー、レコーディング・エンジニア、さらには広報担当との意見の衝突を通して、より高度な商品として練り上げられることがしばしばあった。
本書は、そうしたコロンビア・レコードとアーティスト、ビジネス・エリートあるいは大衆文化との、時には騒然とした関係をリアルに描き、楽しくも目を見張らせる一冊となっている。
●フランク・シナトラを巡る出来事
コロンビアは、フランク・シナトラと新たに契約を結んだが、彼のレコードをまだ1枚も制作していなかった。にもかかわらず、シナトラに25000ドルを融資し、彼がトミー・ドーシーとレナード・ヴァナースンに対して支払うことに同意していた法外なパーセンテージの分配金の精算を援助した。
レーベルは、シナトラの商品価値とマニー・サックスの利用価値を心得ていた。サックスは、“ザ・ヴォイス”を専属シンガーとしてレーベルに迎え、やがて彼の親友になった人物である。シナトラが熱烈なファンの群れに取り囲まれると、サックスもまた取り囲まれるというように、彼らは一心同体ともいえる関係を築いた。サックスはもちろんのこと、コロンビアでは、シナトラへの融資に異議を唱える者はいなかった。
1944年1月、シナトラは、ニューヨーク・フィルハーモニーの指揮者アルトゥール・ロジンスキとニューヨーク・サン紙上で論戦を交えた。論点は、「ジャズが未成年犯罪の一因になっているかどうか」である。指揮者はそれを肯定し、シンガーは否定した。
ロドジンスキは、ティーンエイジャーがシナトラに熱狂する理由を理解できず、クラシックという非常にすばらしい音楽があれば、“スウィング”の必要性はないと考えていたのだった。(本書より抜粋)