スマルズ・パラダイス/ゲイリー・スマリアン
スマルズ・パラダイス/ゲイリー・スマリアン
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米国ビッグバンド界を支える実力者
Smul’s Paradise / Gary Smulyan

米国ビッグバンド界を支える1950年代生まれの白人バリトンサックス奏者の代表格がゲイリー・スマリアン(1956~)だ。同世代ではスコット・ロビンソンと並ぶ実力者と言っていい。

ウディ・ハーマン・ヤング・サンダリング・ハード、メル・ルイス・ジャズ・オーケストラ、ミンガス・ビッグバンド、デイヴ・ホランド・ビッグバンド、ディジー・ガレスピー・オールスター・ビッグバンドと、著名楽団を歴任。現在は昨年12月の来日公演を盛況に終えたヴァンガード・ジャズ・オーケストラの一員であり、2010年の同楽団の東京公演を収録した『フォーエヴァー・ラスティング』では、タイトル・ナンバーでソロがフィーチャーされている。

通算10枚目のリーダー作で米Capriからの第1弾となる本作は、スマリアンにとって初めての編成となるコンセプト・アルバムである。ギター+ドラムスとの古典的なオルガン・トリオを含むクァルテット。その理由について本人は、「ぼくは長い間、この編成で録音したいと思っていた。大好きな編成なんだよ。ジョージ・ベンソンとロニー・スミスの共演作や、ドン・パターソン参加のグラント・グリーン諸作、そしてラリー・ヤングの美しくてとてもスインギーな音楽を聴きながら育ったのだから」と語っている。

念願のプロジェクトを実現させるためにスマリアンが選んだのは、アルバムでの共演経験があるマイク・レドンとケニー・ワシントン、そして過去10年間NYでレドン・クァルテットのメンバーとして活動しているピーター・バーンスタイン。つまりこれまで何らかの共演関係がある4人が、初めて本作のレコーディングのために集ったということだ。

全8曲のうち核となるのが、パターソン関連の3曲。60年代をソニー・スティット・グループで過ごし、88年に51歳の若さで逝去したパターソンという、どちらかと言えばマニアックなオルガン奏者にスマリアンが拘る点が興味をひく。#2はジャズ・メッセンジャーズの得意パターンでもあるシャッフル系のファンキー・チューンで、ジャズ・ファン時代だった若きスマリアンとプロである今のバリトン・ソロが重なるシーンが感慨深い。パターソン&スティットの共作バラード#6は、縁の下の力持ち的な役回りが多いスマリアンの主張が聴けて収穫。バピッシュな自作の#7はこの世界で生きているミュージシャンの矜持だと思う。「セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」と「マイ・シャイニング・アワー」の合わせ技のような自作曲#8まで、ソロ・アクトとしての底力を再認識させられる作品だ。

【収録曲一覧】
1. Sunny
2. Up In Betty’s Room
3. Pistaccio
4. Smul’s Paradise
5. Little Miss Half Steps
6. Aires
7. Blues For D.P.
8. Heavenly Hours

ゲイリー・スマリアン:Gary Smulyan(bs)
マイク・レドン:Mike LeDonne(org)
ピーター・バーンスタイン:Peter Bernstein(g)
ケニー・ワシントン:Kenny Washington(ds)

2011年4月ニュージャージー録音