津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)
津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)
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「Momoチャレンジ」の問題点などについて報じた記事=英ガーディアン紙のホームページ
「Momoチャレンジ」の問題点などについて報じた記事=英ガーディアン紙のホームページ

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。英国のSNSに突如現れた「Momoチャレンジ」現象へのメディアの向き合い方を受けて提言する。

【写真】「Momoチャレンジ」の問題点などについて報じた記事

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 2月下旬、英国のソーシャルメディアユーザーの間で、突如として「Momoチャレンジ」という言葉が飛び交うようになった。その多くは保護者に注意を呼びかけるもの。Momoという不気味なキャラクターが子どもや若者を自傷行為や自殺に追い込むMomoチャレンジというゲームがあるので、子どもから目を離してはいけない、と訴えていた。

 内容は様々で、ユーチューブの子ども向け動画に突然Momoが現れ、「ナイフを首に刺せ」と命令してきたというものもあれば、メッセンジャーアプリ「ワッツアップ」がハッキングされ他害行為や自殺を命じるメッセージが届いたというものもあった。いずれにしても、子どもたちが動画やSNSを介して自殺ゲームに参加させられるという点は共通していた。

 2月末、複数の大手報道メディアが「Momoチャレンジは実在しない」「デマである」「都市伝説にすぎない」と一斉に報道し、冷静さを取り戻すよう呼びかけた。

 たとえば英ガーディアン紙は、Momoチャレンジが実際に行われたという証拠は一切確認されておらず、一連の騒動を大人が作り出した「モラル・パニック」だと指摘。また、ユーチューブもメディアの取材に対し、Momoチャレンジに関連した動画は確認できないと回答した。

 Momoチャレンジを否定する報道が広がったことで、その不安を煽るような投稿は次第に収束していった。この騒動は、メディアの報道によってソーシャルメディアで広がる都市伝説が比較的早期に沈静化した事例と見ることもできる。

 一方で、メディアが不安や恐怖の拡散に加担していたという側面もある。

 一連の騒動の発端は2月17日、英国のある母親が「子どもがMomoチャレンジに巻き込まれた」として、周囲の保護者に注意喚起したフェイスブックの投稿だった。これを英国の地方紙が報じると、ザ・サンやデイリー・ミラーなどのタブロイド紙がこぞって取り上げ、危険性を煽り始めた。

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