■前立腺がんの術後/人工尿道括約筋

 前立腺がんの前立腺全摘手術後の合併症として深刻なのが、尿失禁(尿漏れ)だ。前立腺がんは尿道を締める尿道括約筋に近い場所にできることが多く、括約筋をまったく傷つけずにがんを切除することは難しい。そのため、術後に尿失禁が起きてしまう。

 尿失禁が起きても患者の約95%は、術後1年以内に尿漏れパッドなし、あるいは1日1枚程度の使用ですむまでに改善されるが、3~4%は尿失禁が残ってしまう。そのため、QOL(生活の質)が著しく低下してしまう。

 植え込み型の「人工尿道括約筋」は、とくに重症な場合の治療法だ。2012年に保険適用となった。尿道に巻いたカフが括約筋の代わりに尿道を締める。尿意を感じたらトイレに行き、陰嚢(いんのう)にあるコントロールポンプを押す。するとカフ内にあった生理食塩水がバルーンに流れ、尿道の締め付けがなくなって尿が出る仕組みだ(イラスト参照)。植え込み手術は全身麻酔で、入院期間は4~5日。数日で操作に慣れることができる。

 ただし、尿道の血流を確保するため、強く締めすぎないようにする。そのため、大きな咳をしたときや急に立ち上がったときに多少漏れることがあり、尿漏れパッドの使用が1日1枚程度ですむことを目標にする。国立がん研究センター東病院の増田均医師は次のように話す。

「1日に3~4枚以上パッドを使用する重症例では、患者さんの満足度は非常に高く、もっと早く手術を受ければよかったという声も聞かれます」

 装置は、感染を起こしたときや故障のときには、取り出す必要がある。そのリスクは3年間で1~2割だという。故障の場合は、カフが締まらなくなるので、尿が出なくなる心配はない。装置の交換も可能で、作動休止ボタンでオフにすれば、ほかの病気の治療で尿道カテーテルを入れることもできる。

 現在、導入している病院は多くない。1年たっても尿失禁の回復が難しいようなら、植え込み手術を多く手がける医師を紹介してもらい、QOLの向上を図ることを考えよう。

◯仙台ペインクリニック院長
伊達久医師

◯国立がん研究センター東病院泌尿器・後腹膜腫瘍科科長
増田 均医師

(文/杉村健、別所文)

※週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2019」から

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