作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は韓国の若者たちが立ち上げたブランド「マリーモンド」について。
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ソウルを旅していると、地下鉄や街角で「お誕生日おめでとう!」とアイドルの誕生日を祝う広告を見つけることがよくある。ファン自らがお金を出し合うもので、ファンが多ければ誕生日前後2週間、人通りの多い駅の巨大な広告板で祝われる。誕生日広告は、人気のバロメーターにもなっているのだ。
その誕生日広告に、金福童さんを見たときは本当に驚いた。2年前のことだ。14歳で「慰安婦」にさせられた金福童さんの92歳の誕生日だった。女優のように美しく化粧をされ、木蓮の花に囲まれ微笑む広告は、ほぼ全ての駅に掲示されていた。なにこれ! 超大スター並みの扱いだよ! いったい誰が出したの!?
聞けば、韓国の若者の会社「マリーモンド」が出したという。「慰安婦」の女性たち一人ひとりの人生を学び、女性たちの人生をイメージする花を一つ選び、その花をモチーフに商品を企画する。美しいデザインがほどこされた携帯ケースやアパレルはK-POPスターなどが身につけたことなどもあり、韓国では知らない人のいないブランドとして成長してきた。利益の一部は「慰安婦」女性の活動支援や、性暴力問題解決のために寄付している。
ああ日本にもマリーモンドが欲しい! そう考えてすぐ、長年「慰安婦」問題に取り組んできた梁澄子さんに相談し、私たちはマリーモンドジャパンの準備を始めた……のだけれど、反応は悲観的なものが多かった。「日本の若者には無理」「『慰安婦』は前面に出さないほうがいい」という意見が大半で、そもそも日本で「慰安婦」問題に最も熱心に関わっているのは高齢女性だから、マリーモンドジャパンは杖とか、毛布とか、寝間着とか、枕カバーとか、そういうのにしたほうがいい……という方向に向きかけたこともあった。