「『虚偽情報』は他の誰かに投げかけられる外向きの言葉です。誰かに向かって『これは虚偽情報だ!』と。一方で、『誤情報』は自分自身の行動を省みる内向きの言葉というニュアンスが強い。これは誤情報との戦いにおいて極めて重要なポイントです。自己反省の言葉であり、行動を促す言葉となりうるのです」

 ソロモン氏は虚偽情報として拡散した情報であっても、最終的に誤情報となりうることも指摘している。虚偽情報を受け取った人が、それを真に受けて他の人に広めた場合には、だます意図のない間違った情報──誤情報になるからだ。

 インドやメキシコでは、ソーシャルメディアで広まった誤情報により無関係の人物が誘拐犯と間違われ、リンチや殺害される事件が起こっている。こうした事件でデマを流した加害者たちは、おそらく誰かをだます意図を持っていたわけではない。しかし意図がなくても、誤情報は現実の悲劇を生み出している。

 人は間違いを指摘されても、なかなか受け入れられないものだ。そこに「他人をだまそうとした」という疑いまで向けられれば、余計に受け入れ難くなる。他人を攻撃する言葉ではなく、自分をいさめる言葉を取り上げることで、おのおのがこの問題に向き合おうというのが「辞書」ならではのメッセージなのだろう。

週刊朝日  2018年12月14日号

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