専門家は取り残しが相次いでいると警告する。環境省によると、一部の自治体が独自に実施した立ち入り検査で、除去工事後に取り残しが見つかった事例が全国で21件あったという。

 取り残しがあれば建物の解体時に飛散し、周辺の人びとを危険にさらす。石綿の被害者を支援している「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(名取雄司所長)は都に対し、完了検査の適正な実施を求めた。

 これについて都の担当者は、「基準はないにしても完了検査で除去が適正か確認することが必要だと考えている。必要があれば契約変更などをして対応したい」と説明する。しかし、業者への発注は終わっており、これからどのように対応できるのか不透明だ。

 NPO法人「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏は、築地市場の問題も踏まえ、石綿除去などについて規制を抜本的に強化すべきだと訴える。

「規制は欧米に比べ数十年遅れています。建物の調査から除去に至るまで問題だらけ。除去業者の免許制導入や監視・完了検査の義務づけ、罰則の強化など国も対応を急ぐ必要があります」

 築地市場の周辺は、閉鎖後も多くの人が行き交う。子どももいるが、石綿の危険性はあまり知られていない。過去には発生源から1キロ以上飛散し、健康被害をもたらした事例もあった。市場から1キロ圏内には銀座や新橋も一部含まれ、リスクは数十万人に及ぶ。石綿問題に長くかかわってきたアスベストセンター事務局長の永倉冬史氏は、都の努力は評価しつつ、より踏み込んだ取り組みを求める。

「都は地域住民らにもっとリスクを説明した上で、監視や完了検査で実効性のある対策を講じるべきです」

 今の規制では業者が対策を形式的に取っていれば、いくら石綿を飛散させても罰則はない。住民や通行人らが防じんマスクなどで自己防衛するのは非現実的。業者や監視役の行政を信じるしかないのだ。

 いったん体内に吸い込んだ石綿を取り除くことはできず、飛散がわかってから対応するのでは手遅れ。都や国が命のリスクにどう向き合うのかが問われる。(ジャーナリスト・井部正之)

週刊朝日  2018年11月30日号