

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「シーズンオフ」。
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先日10月27日、五夜連続の独演会が無事に千秋楽を迎えました。4年前から始まった、題して『落語一之輔』。2012年の秋に「14年からスタートして初年度は一夜、2年目は二夜と1日ずつ増やして5年目に五夜で大団円……ということでどーでしょう!!」というありがたくも無責任なお声がけを頂きました。よみうり大手町ホールのこけら落とし的イベントです。噺家冥利につきます。
「ついては初年度は大きな『目玉』が欲しいですね」とのこと。何も考えず能天気に「じゃ『文七元結』のネタおろし(初演)はいかがでしょう」と応えた私。『文七元結』は人情噺の大ネタ。まだ手掛けてなかったのでちょうどいいか、と気軽に提案したのが果たしてよかったのか。初年度は何とか終わり、2年目。
担当者「今年はどーしましょう? 去年は初演の『文七元結』でしたからお客様は期待してますよ」私「やってみます?」ということで、二夜連続でネタおろし。こちらも大ネタ中の大ネタ、『百年目』と『三軒長屋』。無謀。会の前の1カ月はイライラしてしょうがなかった。で、まぁ何とか無事すんだのか……。
2年目で初演はやめときゃよかったんだな……。「2年できて、3年できないわけはない!!」なんて言葉にのせられました。経年による自分の体力の衰えを計算しとくべきでした。ネタは『睨み返し』『三井の大黒』『柳田格之進』のちょい渋い三席。三つの噺を同時期に稽古していると頭のなかで常に登場人物が絡み合って、違う噺に異なる噺の主人公が出てきそうになります。「柳田格之進が左甚五郎が彫った大黒様を一刀両断にして、借金とりを睨んでる……暮れの夜」みたいな。わけわからん。ストーリーは各々調べるように。
4年目、もうしょうがないよね……。ただ4年目ともなると、やりたい噺が残ってないのです。落語事典をペラペラめくりながら選んだのが『猫の災難』『二番煎じ』『文違い』『心眼』。こんな事態にならなきゃ『文違い』『心眼』なんか絶対やらない。でもやってみたら案外面白かった。そんな発見もあります。