林:そうだ、星野源さんを忘れてました。星野さん、今ガンガン売れてますけど、あの人何だか、“ずっと前からそこにいた”という感じですよね。
松尾:そうですか?
林:うまく言えないんですけど、ドラマに出ても存在感があって、若手という感じがしなかったです。と思ったら、「大人計画」で揉まれてたからなんですね。
松尾:彼も正式な下積みはあったと思いますよ。
林:松尾さんご自身としては、スターを輩出するつもりでやっていたわけじゃないんでしょう?
松尾:そうですね。おもしろいことがやりたい、というのが第一で、「笑いという職業でごはんが食べられればいいや」ぐらいのハードルの低さでやってたので、その最初の目標は軽々クリアできたというか。でも、上を狙ってやろうとか、そういう下手な意気込みがなかったことが、結果的に長く続いた理由なのかもなとも思いますね。
林:30年続いてる劇団っていうと、ほかには……。「劇団☆新感線」とかは?
松尾:「新感線」はもう38年じゃないですか。あと、ケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)も、劇団の名前は変わってますけど、33年ですね。
林:宮藤さんとの対談でおっしゃってましたけど、最初のころはペットボトルの水を買える人もあんまりいなくて、水が入ったやかんと湯飲みが稽古場に置いてあったって。
松尾:30年前って、そもそも水を買うという文化がなかったじゃないですか。だから稽古場でエビアンとか飲んでるやつがいると、すごいなと思ってました。普通にやかんの水を飲んでましたよ。
林:当時の稽古場、楽しそうですね。
松尾:楽しくなったのは、始めて7~8年経ったぐらいですかね。それまでは本当、闘いでしたよ。
林:私、松尾さんが演出してるところ拝見したことないんですけど、すごく怒るほうですか。
松尾:今はぜんぜん怒らないです。昔はけっこう怒ってましたけどね。みんな若いから礼儀も知らないし、食べたものは散らかしたままだし、遅刻もするし、漢字は読めないし、社会的にちょっと残念な人が多かったので、イライラして怒ることも多かったですね。
林:皆さん若かったんですね。
松尾:20歳ぐらいで入ってきた人が多いですからね。
林:だから兄貴分として注意するわけですね。
松尾:ただ、僕も社会的にちゃんと適合できていたかというと、できてないからこういうことをやってるんですけどね。
林:「大人計画」って、松尾さんというカリスマ的な主宰者がいて、みんながカリスマにワーッと集ってるようなイメージがあります。皆さん松尾さんを崇拝しきって、どんなときでもきちんと話を聞いているという。
松尾:ああ、今はもうそうではないです。僕だってけっこう間抜けだってことはみんな知ってるし、僕が失敗してるところも見てきてますからね。そういう意味では、僕自身にというよりは、僕の作品が好きで集まってくれた人たちですね。
林:星野源さんなんかに対する接し方はどうですか。あんなにスターになっちゃって。
松尾:あれだけのスターになってからはまだ仕事してないんですよ。だから今一緒に仕事すると、どんな感じになるかわからないですけど、星野が急に楽屋に入ってきたりすると、「あ、スターが来た!」という思いがちょっとあるから、若干緊張したりしますね(笑)。
林:私なんか星野さんがいるだけでドキドキしちゃいそうですけど、昔からの仲間なんですものね。
松尾:ええ、最初は若干緊張しても、すぐに昔の関係になると思いますよ。何せ、彼が16歳のときから知ってますからね。
(構成/本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2018年11月23日号より抜粋