春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
この記事の写真をすべて見る
(イラスト・もりいくすお)
(イラスト・もりいくすお)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「引責辞任」。

【この記事のイラストはこちら】

*  *  *

 高2の時。校舎内に『落語研究部』と書かれた看板を掲げた部室があった。誰も出入りしている様子はなく、10年以上も活動が途絶えているらしい。ちょうど落語を好きになったころだったので担任の先生に「誰もいないなら僕がやります」と言うと、「もう一人くらいいないとなあ」と先生。隣の席のT君を誘うと「俺が生物部の部長なの知らないのか?」と言う。知っていたが、聞くところTは生物部でずいぶん浮いた存在なんだそうな。背中を押してあげよう。「辞めちゃえよ」「……辞める理由が『周りから浮いてるから』じゃカッコ悪いなぁ」

 明くる月。Tが「『責任』をとって辞めてきたぜっ!」と近づいてきた。「水槽の温度が変わりすぎてタニシが死滅したから責任とってきた!」「……タニシ……わざと?」「いやいや、生物部部員として生きものをわざと殺すなんて……タニシはたまたまだ。タニシには誠にすまんことした」。私に謝っても仕方ないが、Tは生物部を退部、落研に加入した。これで生物部と落研の部員数が同じ2名に。今思えば合併して『落語生物研究部』にすりゃ良かったのでは。

 顧問がいないと部活動はできないらしい。二人で担任に頼みに行くと、先生は「やってもいいけど俺は何もしないぞ。お前たちは怪我をしないこと。迷惑を(俺に)かけないこと。以上、厳守な!」。どうやらOKらしい。礼を言って職員室をあとにする。「落研で怪我なんかしないよなー」「迷惑ったってなー、かけようがないよなー」

 主な活動としては、私が落語を覚えてしゃべり、Tが聞く。Tは落語はやらない。聞く専門。毎日部室で寝転がってヤンマガを読んでいるTに向かって、私が落語を聞かせる。その繰り返し。ブルペンしかない野球部だと思って頂きたい。しかし、いかんせんキャッチャーがポンコツ。ミットにいい音を響かせることもなく、感想を聞いても「いいんじゃない」の一点ばり。

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら
次のページ