小売業の関係者はこう警鐘を鳴らす。
「高齢者が歩いて買い物に行ける店が、どんどん消えています。全国どこでも買い物難民が生まれる危機に直面しているのです」
買い物のためには車を手放せないが、そのインフラも整わなくなっている。
「近くに住む人たちから『やめては困る』と言われていますが、年齢もありますし、息子も継ぐ考えはありません。いずれは店を閉めることになると思います」
こう打ち明けるのは、群馬県下仁田町でガソリンスタンド(GS)を夫婦で経営する佐藤美智子さん。車への給油だけでなく、冬場には灯油の配達もしてきた。約20年前に10店前後あった町内のGSは、佐藤さんのところを含め2店のみに。住民のことを考えできるだけ続けたいが、夫婦とも70歳を超え体力の限界が近づく。
経済産業省によると、全国のGSは1995年の約6万カ所をピークに減り続け、18年3月末には約3万カ所まで半減。若者の車離れや施設の老朽化、経営者の高齢化などが原因だ。
給油所が3カ所以下の市町村を指す「GS過疎地」は、18年3月末時点で312自治体に上り、全市町村の2割近くに達する。1年前に比べて10自治体が新たに加わった。
近くに小売店がなくなり、GSも遠くまで行かないと見つからない。鉄道やバスもないと、病院などに行くにはタクシーを呼ぶしかないが、それさえできない地域もある。
「最寄りのスーパーや診療所まで、車で40分かかる人もいます。路線バスがあっても、1時間に1本も走っていないところもある。タクシーを使おうとしても、市内に3社ある地元タクシー会社は『採算が合わない』として、一部の地区の送迎に後ろ向きです」
こう説明するのは、兵庫県養父市の交通問題担当者。同市西部の山あいにある地区では、住民の足はもっぱら車頼み。タクシーがあてにできない状況は、高齢者らにとってつらい。
市では住民の要望に応じて、自家用車による相乗り(ライドシェアサービス)を5月から始めた。国家戦略特区の規制緩和を活用した公認の「白タク」事業だ。NPO法人が受け皿となり、運賃は通常のタクシーの7割程度。9月末までに62件の利用があった。