「歌というより、うめきや叫びのような感じ。演歌の、“ああ~”っていう嘆きの歌声にも似ていますよね。僕らはスペインにも何度か行っていますが、男女の情念とか業の部分で、日本と通じるものがあると思う。結局、恋するということ、愛するということが『曽根崎心中』には集約されている。今年は、歌舞伎や文楽を知っている人だけでなく、若い人たちにもあの激しい情念を体感してほしくて、格安の席を作りました」
熱っぽく語る姿は、とても72歳とは思えないが、エネルギーの源泉にあるのは、愛する妻に褒められたい思いと、自分は未熟だと思う謙虚さだ。宇崎さんは、「これを仕上げて、冥土の土産に、“自分は音楽的にここまでいった”というものを作り上げないと死ねない」と言った。そのとき、目の奥がきらりと光った。
(取材・文/菊地陽子)
※週刊朝日2018年11月2日号