ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。新聞が紙版を廃止し、デジタル版に完全移行した影響について解説する。
* * *
いまや「紙の新聞」だけを発行する新聞社はほとんどない。どの新聞社もインターネット上で展開する「デジタル版」に力を入れ、多くの人がそれを目にしている。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、91万人の有料購読者のうち、71万人がデジタル版の購読者だという。紙版からデジタル版への移行は不可避であり、「問題はいつ紙を打ち切るかだ」という意見すらある。
実際、英紙「インディペンデント」のように、紙版を廃止し、デジタル版に完全移行した新聞もある。インディペンデントは1986年に創刊された英国では最も若い全国紙だ。その名の通り、政党や企業から「独立した」ジャーナリズムを掲げ、左派系のガーディアンから読者を奪うかたちで成長していったが、近年は紙の部数が低迷。2015年末には6万部を割り込む一方で、デジタル版の成長は著しく、月間ユニークユーザーは5900万人を超えていた。
そして16年3月26日、インディペンデントは紙版を廃止し、英全国紙として初めてデジタル版のみの新聞となった。不採算部門の紙版をリストラしデジタルに注力する決断は経営上は奏功したようで、現在はデジタル版の収益は順調に伸びている。
しかし、新聞が紙版を捨てデジタル版に完全移行することが、メディアとしての存在にどう影響するのかは明らかではなかった。
この疑問に光を当てたのが、独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学のニール・サーマン教授とオックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所のリチャード・フレッチャー主任研究員の論文だ。彼らは、英国読者調査(NRS)のデータをもとに、インディペンデントのデジタル版への完全移行が読者にもたらした影響について分析した。