これは14年に国保法の一部が改正され、賦課決定の期間制限規定を設けたことにより生じた弊害だった。
大阪府内で家族で工場を経営するMさんは、11年に法人化した。
15年に社会保険の健康保険へ加入するように、日本年金機構から通知が来たため、それに従った。すると法人化した時点から加入義務があると、Aさん同様にさかのぼっての支払いを求められた。
「結構な金額ですが、やりくりして払った。それまで国民健康保険料を払っていたので、健康保険料と二重払いになると思っていて、事務の担当者に役所に聞いてもらい、国民健康保険はやめることができた。だが、社会保険の担当は日本年金機構だといい、二重払いかどうかはわからないなどと言われ、面倒になり放置していました。うちの他の社員にも二重払いの者がいます」(Mさん)
総務省行政評価局がこう解説する。
「社会保険は日本年金機構、国民健康保険は市区町村が窓口。お互いの情報共有がまったくないために、二重払いが生じたと思われます。早急に二重払いが生じない仕組み作りと救済できる方策を講じることが必要です」
総務省管轄の行政苦情救済推進会議(座長・松尾邦弘元検事総長)に諮ったところ、「国民健康保険料が還付できない期間が生じることについて、厚生労働省が対応することが合理的」「同じような事案が今後、生じないように国民健康保険と社会保険の制度間での齟齬(そご)を解消すべきだ」「二重払いが還付されない制度となっている実態を踏まえて、実際の窓口となっている関係機関に注意喚起すべきだ」などの意見が出された。
総務省行政評価局は、これらの意見を踏まえて、18年7月18日に厚労省に対し、二重払いを解消、救済すべきだとあっせんする公文書を出した。19年1月までに措置や結果を知らせるようにと求めた。
だが、厚労省の動きは鈍いという。総務省行政評価局がこう疑問視する。
「厚労省に、二重払いが還付されない事案について問い合わせると、初めてではないという対応でした。いくつか問い合わせがあったのか、と聞くと『チラホラあります』と答えた。被害を把握しているのなら、なぜ対応しなかったのか」