――AIDの臨床への応用は考えられますか。

 一連の研究により、ワクチンがなぜ効くかということの基本的な仕組み、すなわち獲得免疫における抗体記憶が形成される仕組みを明らかにできます。しかし、分子レベルでそれが解明されたからと言って、それが良いワクチンを作るのにすぐに役立つかどうかは、正直なところ、分かりません。またがんとの関連で、AIDの異常発現により、白血病が起こることもあるとも言われています。

 自然科学には、役に立つ研究と役に立たなくても非常に意味がある研究があり、役に立たないように見える研究も、ひょっとしたら50年ぐらい経ってみると役に立つ可能性があります。研究は、研究者の探究心を刺激するから前に進むのであって、初めからこれは役立つだろうというモチベーションが働く場合もありますが、そうでない場合もあるので、長い目で見ることが大事なのです。

――半世紀がかりの息の長い研究ですね。それに比べると、免疫チェックポイント分子であるPD-1の発見から創薬までは短かったですね。

 PD-1は92年、免疫細胞がアポトーシスを起こす分子の探索を進めていたところに、偶然見つかりました。シーズだけでなく、我々が製品コンセプトの妥当性を確認する初期臨床試験(プルーフ・オブ・コンセプ卜試験)のアイデアも出して、抗PD-1抗体として、2014年に小野薬品工業からニボルマブ(オプジーボ®)が製品化されました。

 悪性黒色腫(メラノーマ)では15カ月生存者7割という奏効率を示しますが、3割の人には効きません。ニボルマブに別の物質を加えて、その3割にも効くようにしたいと、動物実験を重ねています。

――AIDとPD-1は、研究の二本柱ですね。

 そうですね。今も、研究のために、客員教授をしている京大にいる時間が長いのですが、16年4月からは、先端医療振興財団にも、PD-1に関する新しい研究チームを立ち上げます。PD-1は、免疫のブレーキ役ですから、それをブロックすれば、免疫が活性化されます。一方、ブレーキをブレーキとして利かせることも重要で、自己免疫病の治療につながる可能性があります。そうした逆方向の薬の開発を目指します。

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