昔の歯科医院で経験した「キーン」に恐怖を感じて、歯科医院の受診を敬遠している人には、この点はぜひ知っていただき、一度、新しい歯科用機器で治療を試してみてほしいですね。

 また、「キーン」がどうしても苦手だという場合は耳栓をしてもらったり、イヤホンで音楽を聞いていただいたりして気を紛らわしてもらうこともできます。歯科医師に相談すれば、たいていの場合、OKが出るのではないでしょうか(ただし、治療の説明があるので、片側の耳は開けていただくのがいいように思います)。

 30年くらい前、デンタルチェアにカセットテープの再生機が付いているタイプのものが歯科器材業者から販売されていました。患者さんが自分のカセットテープを持参して好きな音楽を流せるというものでしたが、あまりニーズがなかったのか、いつしか見なくなりました。

■歯を削らない治療を選ぶ

 エアタービン自体がどうしても嫌だ、という場合は「歯を削らない治療」を選ぶという手もあります。

 保険診療内でできるものとしては、むし歯の部分だけをエキスカベーターという先のとがった器具でほじくり出していく方法があります。象牙質のうち、むし歯の部分は周囲と比べ、やわらかくなっています。そこで、この部分を少しずつこそげとっていくのです。

 歯科医師が手で行う作業なので時間がかかりますが、エアタービンの音を聞かずにすみます。さらに、この治療では健康な歯を不用意に削らずにすむというメリットもあり、積極的にこの方法を実施している歯科医師もいます(一方で、時間がかかったり、むし歯の部分を取り残す可能性があるのでやりたがらない歯科医師もいるでしょう)。

 さらに自由診療の歯科では、「削らない治療」を行っているところがけっこうあります。例えば3Mix(スリーミックス法)。抗生物質をむし歯の病巣に入れ、殺菌してむし歯を殺す治療です。

 また、スウェーデンで誕生した「カリソルブ」はむし歯の部分をやわらかくする次亜塩素酸ナトリウム溶液とアミノ酸などの溶液を塗り、特殊な器具でむし歯を除去していく治療です。ただし、自由診療ですから、保険診療における治療に比べ、費用は高額になります。また、むし歯の進行度によっては、望んでいた治療ができないケースもあるでしょう。

 どの方法がいいか、歯科医師に治療内容と費用をよく聞いた上で、決めるようにしてください。

◯若林健史(わかばやし・けんじ)/歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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