「750ミリリットル瓶で何万円もする高級ワインでも税額はわずか60円です。金持ち優遇税制と言うほかありません。大衆的な酒であるビールや焼酎の酒税を大幅に下げるべきです」(同)
世代論からの分析もある。アルコール飲料に限らず、クルマやAV機器への関心が低下し、買わない世代が登場した。1980年前後以降に生まれた「バブル後世代」だ。マーケティングコンサルタントで、JMR生活総合研究所の松田久一社長がこう指摘する。
「バブル後世代は収入に見合った支出をしない“嫌消費”層です。就職氷河期に就職活動をして社会に翻弄された世代です。常に将来に不安を持っているから消費を控える。それまで組織や阿吽(あうん)の呼吸で仲間意識を重視してきた会社は、個人の実力主義賃金体系に移行した。仕事が終わったら、みんなでとりあえずビールというサラリーマン文化が消滅した。この世代は超個人主義だから、上司に誘われても平気で断ります」
上司が無理強いなどしようものなら、パワハラ、アルハラと指弾される時世だ。不況の長期化で交際費が使えなくなり、ますますサラリーマンたちの足は酒場から遠のいた。従来の“飲みニケーション”はもはや過去の遺物なのか。加えて、居酒屋やビアホールの倒産件数も急増している。
「酒文化・居酒屋文化」の危機が懸念されるなか、一筋の光明も差している。若者を中心とする静かな日本酒ブームが起きているのだ。日本酒の消費額の推移を見ると、各年代とも減少を続けてきたが、10年に底を打つと、「20~29歳」「30~39歳」などの若年層で上昇に転じている。
日本酒造組合中央会が運営する「日本の酒情報館」の今田周三館長によると、転機となったのは11年3月の東日本大震災という。花見シーズンを目前にしていたが、全国で自粛ムードが広がった。しかし、岩手県の「南部美人」という蔵元がユーチューブでメッセージを発信。「日本酒を飲んで頂くことで、われわれ東北を応援して頂きたい」「われわれにとっては、自粛よりもお花見して頂くことのほうがありがたい」などと呼び掛けた。
今田氏がこう語る。
「この発言で明らかに世の中のムードが変わりました。いままでお酒を飲まなかった若い人が日本酒を飲むようになりました。当初は東北各県のお酒を中心に売り上げが伸びましたが、やがて全国に波及していった。さらに、90年ごろから蔵元の世代交代が進んで、造り手が若返って新しい日本酒が次々と生まれました」
先駆けとなったのは、山形県の高木酒造の「十四代」。その影響を受けた若い蔵元たちが、続々と新たな日本酒造りに挑み始めた。