若者の間では日本酒ブームも (c)朝日新聞社
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飲酒習慣の状況、年齢階級別、人数、割合-全国補正値、男性・女性、20歳以上 (週刊朝日2018年9月28日号から)
飲酒習慣の状況、年齢階級別、人数、割合-全国補正値、男性・女性、20歳以上 (週刊朝日2018年9月28日号から)

「お酒は健康によくない」「赤い顔で酔っ払うのはカッコ悪い」──。さまざまな理由から、若者の“酒離れ”が進んでいる。厚生労働省の調査によると、飲酒習慣のある男性は「20~29歳」ではわずか10.9%しかない。酒離れする理由を探ってみたら、意外な事実が……。

【図表で見る】飲酒習慣の状況はこちら

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 デザイン会社で非正規社員として働く男性(26)はこう語る。

「月収は20万円足らずで、家賃5万円、光熱費とスマホ代で4万円くらい。これらを差し引いたら、とても飲みに行くような余裕なんかありません。以前はコンビニで弁当と一緒に缶ビールを買うこともありましたが、それもやめました。飲酒習慣が身につく前だったせいか、いまは飲みたいとも思いません」

 厚生労働省が2016年に実施した「国民健康・栄養調査」の「飲酒の状況」を見ると、若年層になるほど酒を飲まない実態が浮き彫りになる。飲酒習慣のある人が最も多いのは、男性では「50~59歳」の46.1%。以下、「40~49歳」は37.9%、「30~39歳」は29.0%と一貫して減り続け、「20~29歳」ではわずか10.9%しかない。女性も男性ほど顕著ではないが、やはり減少傾向にある。

 階級・階層社会論の専門家ながら、『居酒屋の戦後史』など酒文化に関する著書がある橋本健二・早稲田大学教授がこう分析する。

「非正規で働く若者が増えて低所得のため、酒を飲むだけの余裕がないというのが最大の要因です。酒は飲まなければ生きていけないというものではない。あくまで嗜好品ですから、酒代は真っ先に削られるのです」

 いま、派遣社員やアルバイトなど非正規で働き、極端に生活水準が低い“アンダークラス”と呼ばれる階級が増加の一途をたどっている。橋本氏の試算によれば、15年時点でアンダークラスは929万人。労働者の3人に1人が非正規というのが現状で、所得の減少はフリーター化する若年層で著しい。

「非正規労働者だから、正社員のように同期や上司との強いつながりがなく、会社関係で飲むこともない。シフト制の職場だと労働時間もまちまちなので、みんなが一斉に仕事が終わって帰りに飲むという機会もない。かつて『1億総中流』と呼ばれたころは、日本人の大多数はビールと日本酒を中心とする『酒文化』を共有してきたわけですが、それが崩壊の危機にあるのです」(橋本氏)

 日本の歪んだ酒税法も、若者の酒離れを助長する要因となっている。特にビールの税率が突出して高く、1リットル当たり220円だ。350ミリリットル缶で77円もかかっていることになる。一方、富裕層が飲むワイン(果実酒)は安く抑えられており、1リットル当たり80円だ。

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