ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回のテーマは昨今のワイドショー事情について。
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相撲、レスリング、カヌー、アメフト、水球、ボクシング。昨年末から今年にかけて騒動を起こしたスポーツ業界各種です。もはやこれは一大ムーブメントと呼んでいいでしょう。『悪しき慣習をぶっ潰し、浄化&再建』は今や世間の大好物。しかしスポーツに限らず、あまり急速に権力や格差を平坦にしようとすると、それまでの魅力やリアルさが失われてしまう気もするので、あくまで世間は“世間話レベル”の下世話さを持って傍観することも大事だと感じる今日この頃です。
それにしても、5月の朝丘雪路さんに続き今月は津川雅彦さんが……。この日本を代表する夫婦の訃報が、日大・内田監督の辞任、ボクシング山根会長の辞任と重なり、どちらもワイドショーのトップニュースにならなかったというのは、何とも寂しい話です。他人様の離婚・喧嘩・破産といった不幸を好み、スターの死を悼み、そして皇室を愛しむ。それがワイドショーの本分だったはずが、どうも最近はめっきり本気(ガチ)&社会派モードまっしぐらな印象です。無論私もその片棒を担いでいるひとりである自負はありますが、往年の『上原謙・大林雅美泥沼離婚』『桜田淳子合同結婚式』『デヴィ夫人vs.渡部絵美・マリアン・酒井政利』といった大作は、ここ何年も生まれていません。来る日も来る日も糾弾と謝罪の嵐。ああ、不朽の名作『奈美悦子乳首損害賠償騒動』が懐かしい……。
その分岐点は間違いなく95年です。阪神大震災やオウム事件が起こったその頃を境に、ワイドショーは『視聴者からのFAX』を取り入れました。生放送におけるFAX読み上げは、現在のSNSの原点です。良くも悪くも世間に『リアルタイムで発言する権利』を与えたことで、情報や視点は絶対的に『視聴者(世間)側のもの』でなければならなくなった。『熟年女優が美容整形で乳首を失った』というエンタメ性よりも、その場合の『法的倫理』や『責任の所在』を追及することの方が、観ている側の『得』なのです。その結果、最近のワイドショーは、観ていて無駄が一切ない濃厚なものばかりになってしまった感があります。昔から昼間のテレビを仕切るのは、男女を問わず『おばちゃん度の高い人』というのが鉄則です。以前はフジの須田アナやTBSの三雲孝江さんのような『のんびり茶飲み仲間系』や、『主義主張が特にない』岸部シローさん的スタンスの“おばちゃん”たちが主軸でしたが、今は加藤浩次さんしかり坂上忍さんしかり宮根さんしかり『忌憚なき井戸端集会主催者系おばちゃん』が主流になっています。さらにそこへ『おばちゃん化否定派』の筆頭・安藤優子さんも加わり、朝から正義と倫理が大声で渦巻いている状態。もはや古き良きワイドショー然としたおばちゃんを貫いているのは恵俊彰さんだけです。台風も森友問題もすべて同じ熱量。
そして、忘れてはならないのが『ヒルナンデス!』の南原清隆さんの存在です。のんびりした井戸端会議で、さしたる自己主張はせず、美味しそうにお茶を飲みながら盛り上げてくれる。まさに究極のハイブリッドおばちゃんナンデス。完全に視聴者得オンリーの情報番組とはいえ、この『建前』感は今のテレビにとって大事ナンデス。私も分かりやすく異端でいられる貴重な場所ナンデス。
※週刊朝日 2018年8月31日号