●設計段階と違う客室の高い気圧
また、手記は事故の2カ月前の85年6月、日本航空(JAL)が技術者チームをボーイングへ送った新事実も明らかにしている。
<JALがチームを送ったのは、ボーイングが通知したジャンボ機の老朽化対策に事故機が入っていない理由を聞くためだった>
手記はそう記す。
事故機は日本の国内線専用に造られたSRと呼ばれるタイプで、離着陸回数が特に多いものだった。
<ボーイングはSRの客室の気圧を(国際線の機体より)低くすることで、合意したはずだと話した>
SRの設計時、ボーイングは離着陸回数が増える代わりに、客室の気圧を低めにすることで、胴体の負担が変わらないようにした。気圧の切り替えスイッチも付いていた。しかし、
<JALの技術者は戸惑った表情になった。そして「我々は常に高い気圧にして使っている」と話した>
客室の気圧は高いほうが耳鳴りがせず乗り心地がいいし、高高度を飛べて燃費も向上する。そのため、事故機は高い気圧にしたまま飛んでいたと思われる。
<この結果、事故機には設計よりも高い負担が胴体に加わっていた>
手記にはここまでしか書かれていない。
日本の事故調査委員会の元委員は、こう指摘する。
「事故機の客室の気圧が低ければ、隔壁が破れる時期が遅れて、事故が起こる前に整備点検で修理ミスを見つけられた可能性は高まっただろう」
当時のJALの整備担当者は、
「修理ミスさえなければ、たとえ気圧を高めにしていても事故は起きなかった。また、客室の気圧を低くすると、亀裂の進展は遅くなるので、修理ミスを見つけやすくなるとは限らない」
と反論するが、当時の運輸省の担当者は、
「客室の気圧だけでなく、SRにはさまざまな老朽化による問題があり得た。JALに検査をさせていた矢先だった」
と、予兆を感じていたことを打ち明ける。
2002年に中華航空のジャンボ機が修理ミスによる疲労で空中分解するなど、疲労による航空事故はその後も続いている。
今回の手記は、メーカーは簡単には疲労を認めないこと、航空会社は経済性を優先しがちなことを示唆している。25年前の事故をめぐるボーイングの“ダッチロール”から学ぶべきことは、今なお少なくない。
※週刊朝日 2010年8月20日号より抜粋