
家族でロンドンに暮らしながらアーティスト活動を続ける今井美樹さん。素敵に年齢を重ねてきたその美しさを、作家・林真理子さんも絶賛。妻、母、そして一人の女性としての生き方について語ってくれました。
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林:新曲の「あなたはあなたのままでいい」は、奥さんが夫に向けた歌だと思っていいんですか。
今井:これは、映画「終わった人」(6月9日公開)の主題歌としてお話をいただいたんです。去年の春ごろ、彼が日本から帰ってきたときに、「君にこういうオファーが来てるんだけど、どうかな」と言って、内館牧子さんの原作と映画の台本を見せてくれたんです。
林:今井さん、「想い出にかわるまで」(1990年)という内館さんのドラマに出てましたよね。
今井:「あしたがあるから」(91年)と2作続けてやらせていただいたんですよ。私、普段は「なぜ私にお話をくださったのか」という詳細がわからないと話を進めないんですが、原作が内館牧子さん、タイトルが『終わった人』というだけで、「これはおもしろいに違いない」と思ったんです。私たちと同世代の、人生の秋みたいなところを歩いているご夫婦、ご家族のお話なんです。
林:定年退職した男性の話ですよね。アーティストの方っていつまでも若々しいし、年齢不詳だったりするじゃないですか。「おじさんおばさん臭がつく」とか考えなかったですか。
今井:私たち、真夏の季節は走り切ったと思うんですね。人生の秋に入った今、心に景色を見渡す余裕ができて、緑の美しさに気づいたり、風がやさしいことに癒やされたり、庭で紅茶を飲んでるだけで幸せを感じたり……。
林:まあ素敵。
今井:若いころは、あんまりそういうことを幸せだとは思わなかったんです。今うちの庭をやり直してちょうど1年くらいなんですが、「いやー咲いたね」「あら、こっちにもつぼみが」なんて言い合ったり。そういうことを楽しめるようになったことが、私も彼もとても不思議だし、うれしいし、新しいおもしろさを見つけたというか。環境を変えたことで、いやがおうでもすべてが変わって、豊潤な秋を味わえるようになったというか。だからまったくネガティブな印象はありませんでした。自分たちにとって避けては通れないテーマでしたし、今回「終わった人」というストーリーをもらえて、ラッキーだったなと思います。