在宅医療は、通院での診療が難しくなったときに、患者と家族を主に医療の面からバックアップする。病状のことだけでなく、体調不良などで生じる日々の困りごとも相談できる。それが生活を中心に考える在宅医療の大きなメリットだろう。国が推し進めていることもあり、在宅医療は身近な存在になりつつある。(※患者と家族はすべて仮名)
【グラフで見る】こんなに変わった!在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移
「じゃ、パンダのクッション入れてみようか」
「このイス、逆向きにしたほうがいいんじゃない?」
4月中旬。都内のマンションのダイニングルームで、イスに座るミキさん(38)の足もとで、在宅医の兼村俊範さんらが奮闘している。座っている時間が長く、足のむくみが出ていた。このことから、兼村さんらが膝の曲がり方や足首の高さなどを調整しようと、試行錯誤していたのだ。
ミキさんは乳がんを患い、自宅で療養中。在宅酸素などが必要で、2月末から兼村さんがいる新宿ヒロクリニック(東京都新宿区)の在宅医療を受け始めた。
当初は、治療を受けていた都内の専門病院から緩和ケア病棟のある病院に転院するつもりだったが、相談した緩和ケア病棟の医師から、在宅医療を勧められたという。今は、週2回の訪問診療と、週1回の訪問看護を受けている。
「自宅なら友達も気兼ねなく呼べますよね。この前も女性10人でホームパーティーをしました。緩和ケア病棟ではできなかったと思う」(ミキさん)
厚生労働省の患者調査(2014年)によると、在宅医療を受けている患者は約15万6千人。08年から増えている。一方で、在宅医療を行う医療機関も増加傾向にある。同省の14年のデータでは、診療所全体の2割強、病院の3割強が訪問診療を実施している。ちなみに、在宅医療は、計画的、定期的に患者宅を訪問する「訪問診療」と、症状が急変したときなどに、患者や家族の要望に応じて患者宅を訪問する「往診(緊急往診)」に分かれ、このほかに在宅医の指示のもと、在宅で患者のケアを行う「訪問看護」がある。