ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。「漫画村」など海賊版サイトに対して実施される「ブロッキング」について、その問題点を解説する。
【児童ポルノサイトはアクセス遮断が「緊急避難措置」として行われている】
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政府が国内インターネット接続業者(ISP)に、漫画などの海賊版サイトへのアクセス遮断(ブロッキング)を求めるとの報道が、ネットを駆け巡っている。13日の閣僚会議で方針を決めており、この号が届いたときには、すでにブロッキングが実施されている可能性もある。
4月6日付毎日新聞の記事によれば、「他国で行政指導や捜査当局の摘発を受けた」ものの日本からアクセスが可能などとした三つの海賊版サイトについて、出版社や著作権者の被害を踏まえた「緊急避難措置」として、ブロッキングを要請するという。
背景にあるのは漫画の海賊版サイトの隆盛だ。昨夏から利用者が急増し、今年に入って勢いを増したことで、出版社や漫画家が対策を強く訴えていた。政府によるブロッキング要請の方針は、こうした出版業界の状況を受けたものだ。
しかし、この政府方針に対する反発も見られる。ブロッキングの方針が報道されるとすぐにネットでは、通信や法律の専門家や実務家らが声を上げた。
問題視したのは、著作権侵害を理由としたブロッキングを認めてよいのかどうかということ。さらに、根拠となる法律がないまま政府の要望に応じるべきなのか、という点だ。
接続業者のレベルで特定通信の遮断を行うことは、憲法が定める「通信の秘密」を侵害する恐れがある。実は、日本でもブロッキングの先例はあり、2011年から児童ポルノを扱うサイトについて、行われている。
ただしこれは、数年間にわたる慎重な議論の末に、被害児童の人権を守るほかの手段がない場合の「緊急避難措置」として、やむを得ず認められたものである。
当時、著作権侵害もブロッキングの対象になるか議論となったが、緊急避難には該当せず認められないと判断されていた。今回政府がブロッキングを強行すれば、当時の結論を無視して独自解釈で推し進めることになる。