西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒養生訓】(巻第四の60)
烟草(えんそう)は性毒あり。煙をふくみて眩(めま)ひ倒(たお)るる事あり。
習へば大なる害なく、少(すこし)は益ありといへ共、
損多し。病(やまい)をなす事あり。
「酒は天の美禄なり」と語り、飲酒については寛容な益軒ですが、喫煙については、厳しい見方をしています。今のように喫煙者が肩身の狭い思いをする前のことですから、やはり益軒先生には先見の明があるのでしょうか。
まずは、煙草の由来についてこう語ります。「たばこは天正・慶長年間(1573~1615年)に異国より入ってきた。淡婆姑(たんばこ)は和語ではなく、外国語である。近世の中国の書に多く書いてある。また烟草ともいう。朝鮮では南草(なんそう)という」(巻第四の60)
その上で、
「烟草は本来の性質は毒である。煙をのんでめまいで倒れることがある。慣れれば大した害がなく少しはいいことがあると言われるが、損失が多い。病気になることがある。また、火災の心配もある。習慣になると、むさぼってやめられなくなる。(中略)はじめから煙草をのまないのがいい。貧しい者にとっては、金もかかる」(同)
と煙草の害を様々に言い連ねています。
西洋医学の立場からすれば、煙草の害は明確です。ニコチンによる急性中毒は頭痛、めまいなど一過性ですが、長期多量喫煙者による慢性中毒となると、気道粘膜刺激症状のほかに、胃腸症状、振戦(ふるえ)、不眠、心悸亢進、不整脈、血管収縮などの症状が現れます。さらに、虚血性心疾患(心筋梗塞など)や喉頭がん、肺がん、口腔がん、食道がんを引き起こすことが疫学的に証明されています。食品添加物の発がん性がいろいろと取り沙汰されますが、煙草は確実かつ最強の発がん性物質を含んでいます。最近は認知症との関係も言われるようになりました。