TM NETWORKでデビューしたのが1984年。その2年後に渡辺美里さんの『My Revolution』が1位を獲り、作曲家・小室哲哉の名が世間に躍り出ます。TMの人気も加速度的に高まり、87年の『Get Wild』のヒットをきっかけに『CD限定リリース』や『YAMAHAのシンセサイザー』などに象徴されるデジタルサウンドの代表格として国民的な存在となりました。当時中学生になったばかりの私は『シンセ』という言葉も、『リミックス』の定義も、『A面とB面に分かれていないアルバム』の概念もTMを通して知りました。
80年代後半から90年代前半にかけて提供しヒットしたアイドル歌手の楽曲は、中山美穂『50/50』、小泉今日子『Good Morning−Call』、宮沢りえ『DREAM RUSH』、中森明菜『愛撫』など、従来の邦楽にはなかった無機質なテンポ感が斬新でありながらも、実はウェットで叙情的な歌謡曲感に溢れており、後に『TKサウンド』なる超大衆音楽として時代を席巻したのは極めて必然的だったと言えるでしょう。
60年代の東京多摩地区に育ち、数字とデジタルに強く欧米かぶれで横文字大好きな一方で体と気は小さく、人情系や浪花節どっぷりの超わびさび気質。まさに高度経済成長期以降の日本人の性(さが)を凝縮し最も成功した男、それが小室哲哉です。それをも引退(理由はいろいろあれど)に追い込む姿の見えないネット幻想社会。そんなにも不平等や不明瞭を嫌い、他人様の不徳と失墜を見届けることでしか充足できないなら、いっそ資本主義やめますか?
※週刊朝日 2018年2月9日号