ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「小室哲哉の想い出」をテーマに筆をとる。
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津波映像の時もそうだったように、人は負のエネルギーに満ちたものや光景に繰り返し接していると、大なり小なり欝状態に陥ると言われています。そんなわけで、私は今『不倫欝』気味です。ここ数年の不倫関連の報道やゴシップ、そしてそこに渦巻く紋切り型な負の感情を垣間見る度に、えも言われぬ倦怠感に襲われます。なんて言いながら、単にてめぇがダルいのを不倫報道のせいにしている感も否めませんが、小室哲哉さんの一件でそれはほぼ確信に変わりました。その内容ではなく因果関係の意味合い的に、あれほど悪趣味で陰湿な会見を見たことがありません。思い出したくもない。
今さら、ネット社会の感情と価値観の仕組みなどを考えても不毛なので、今週は小室哲哉の想い出を書きたいと思います。『引退』の二文字を発した途端にこれまでの功績を讃えられ惜しまれている小室さん。確かに『一時代を築いたソングライター、プロデューサー』というのもれっきとした事実ですが、何よりも小室哲哉がすごいのは、バンド、ソロ、職業作曲家・作詞家・編曲家、そしてプロデューサーのすべてにおいて天下獲りを成し得た音楽家だというところです。そんな人は今までの日本音楽シーンでひとりもいません。形態の変化はあるにせよ、特に80~90年代は、これらの要素をほぼ同時進行的に遂行しており、もちろんソロで歌を出して1位になり、黄色い声援のファン(信者)たちからの紛れもない『アイドル的人気』であった上に、自身の番組を持つ『テレビタレント』でもありました。すなわち小室哲哉は日本の芸能界史上、最も提供し消費・消耗された人間のひとりなのです。