小池百合子東京都知事の“生命線”である築地市場の移転問題は、2018年、どんな展開を見せるのか。12月10日には、都と業界団体でつくる新市場建設協議会が、豊洲新市場への開場日を「2018年10月11日」とすることで合意。移転問題は一応、決着したかに見える。だが、最大多数派の水産仲卸業者を中心にいまだ移転反対論は根強く、移転がスムーズに実行されるかは不透明な情勢だ。ある仲卸業者がこう話す。
「12月12日には、水産仲卸の業界団体である東京魚市場卸協同組合(東卸組合)の総代を対象に、理事長ら幹部による説明会が行われましたが、総代たちからは『都知事が約束した安全宣言が出ていないではないか』『追加の汚染対策工事が終わった後に環境アセスをしないというのはどういうことか』『駐車場の面積不足や交通アクセスの悪さなど、使い勝手の悪さが改善されていない』などと、不安の声が続出しました。業者たちが使う運搬車『ターレ』の充電プラグの規格が違って使えないという問題があって、これは予算がついて変換プラグがつくことになったそうですが、都のやることは一時が万事そんな感じ。『豊洲に行ったら、取引をやめる』と顧客から言われている業者もいる。今でも本音は『できることならば行きたくない』という仲卸業者が大半です」
そんな中、仲卸業者たちの不安を一層、高める動きがある。18年の通常国会に提出される見込みの卸売市場法の改正案である。
農水省は12月5日、卸売市場法の規制を緩和する案をまとめ、同日、自民党の会合で了承された。この案では、大都市で都道府県や地方自治体だけが開設できた「中央卸売市場」に、新たに民間企業も参入できるようになる。築地の水産仲卸業者で中央区議会議員の渡部恵子氏がこう語る。
「民間企業の参入が自由化されることで、例えば大資本のネット通販企業や大手スーパーなどでも独自に市場を開設できることになります。ただでさえ使い勝手が悪く、都心からも遠くなる豊洲市場に移転して、そうした競争に勝ち残っていけるのか。一部の大手仲卸業者が民間の市場に移って生き残ったとしても、規模の小さい大半の仲卸業者は立ちいかなくなる。大手資本による大量流通が主流になれば、良質な食材を仲卸の“目利き”で評価する現在の商習慣が失われ、漁師など産地側も安く買い叩かれることを懸念しています。せっかくユネスコの無形文化遺産に和食が登録されたのに、市場の“目利き”や料理人たちの共同作業で築いてきたそうした食文化も、破壊されてしまう恐れがあります」